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zoom RSS 『フォークの歯はなぜ四本になったか』 ヘンリー・ペトロスキー

<<   作成日時 : 2010/02/03 00:00   >>

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身近にある日用品から、デザインと技術の歴史について考える。

われわれは人工物に囲まれて、人工物を使って、日々暮らしている。箸や包丁や鍋、ボールペンやハサミやノート、ゴミ箱や櫛や爪切り。まだまだいくらでもある。それらを当たり前のように利用して、われわれは生きている。こうしたモノたちがなぜいまある形に落ち着いたのか、そもそもは必要があって発明され、それが製造され販売されるようになったわけだが、その過程はいかなるものだったのか。あまりに身近にあるから普段考えることもなく使っているモノたちは、先行の同種のモノより、より便利に、より快適に、より安全に使用できるよう歴史のなかで変化してきた。その過程を追う。

たとえばフォーク。
実用的なフォークが歴史に登場するのは7世紀の中東の宮廷で、それがずっと経ってイタリアに伝わったとされている。フォークが登場するまで、人は食事の際にナイフを用いた。ナイフの歴史は古く、先史時代に人は岩の破片を成形し、これを作った。岩石を砕くと鋭利な刃ができ、肉や野菜をこそげたり、突き刺したり、切ったりするのに適していた。ナイフ1本で肉を突き刺し、口に運ぶ。ナイフを使えば手づかみにするのと違い、手を汚さずに済む。しかし刃を口のなかに入れるのは危険だし、取り分けるのにも不便だ。2本のナイフを用いる場合もあったが、やがて、食物を固定する必要を感じた誰かが、二本歯のフォークを発明する。片手のフォークで肉を押さえ、片手のナイフで取り分ける。抜き差しも楽だし、口のなかを切る危険性も少ない。
このフォークが一般に広まると、その欠点を指摘する声が聞こえてくるようになる。二本歯では小さなものをすくっても、歯と歯のあいだからこぼれてしまう。やがて三本歯のフォークが生まれ、さらに進化して四本歯となる。フォークの形状も、湾曲して食物をすくいやすい形状へと改良されていく。こうして、いまわれわれの身近にある四本歯のフォークが誕生した。当然のように使っているから意識しないが、フォークは発明された当初からいまある形状ではなかったのだ。

著者は述べる。「形は機能にしたがう」のではなく、「形は失敗から生まれる」と。機能から生まれたのなら、最初から完璧な形のものができなくてはいけない。けれども実際には、不完全な最初の発明品が誕生し、それを利用する人たちのあいだから欠点が指摘されるようになり、デザイナーはその欠点を克服しようと新たな発明品を生み出す。しかし新しい発明品にも欠点はつきまとい、これを克服するためにさらなる発明が試みられる――モノの発展に終わりはなく、つねにいまある形は一時しのぎに過ぎない。

といってもちろんデザインが先行品の失敗からのみ生まれるとはかぎらず、ときにはその時代の流行から取り残されまいとして限定的なデザインとなる場合もある。初の流線型の機関車が作られたとき、デザイナーたちがトースターや鉛筆削りまで流線型にしてしまった時代もあった。また、同じモノであるならより消費者にウケのよいデザインを狙おうとする戦略的な理由に左右される場合もある。

「必要は発明の母」というが、モノの進化を促すのは必要ではなく使用者の贅沢だ、と著者は述べる。
既存のモノの欠点は、改善の「必要性」という言葉で表現できるのだろうが、実際に技術的な進化を促すのは、必要よりも「欲望」である。たとえば、われわれには空気と水が必要だが、どうしても空調装置や冷たい水がなければならないわけではない。また、食べ物は不可欠だが、フォークを使って食べる必要はない。必要ではなく、贅沢こそが発明の母なのである。どんな人工物にも、多かれ少なかれ機能上の欠陥があり、それが進化を推し進める要因となっている。


あらゆるモノに、つねに改良の余地がある。ある人にとってはこの上なく便利だったとしても、べつの人には不満があるかもしれない。日用品の大半は右利き用で、左利き用は少ない。左利きの人は日々不便を強いられるだろう。この点に注目して左利き専用の製品を開発する企業もある。

「文明の進歩そのものが、過誤と欠点と相次ぐ修正(そしてときには過剰修正)の歴史なのだ」。
デザインの歴史についての、上が著者の結論となる。失敗と修正の歴史を背後にして、いまある形に(一時的に)落ち着いた身の回りの品々を見て、これまでとは違う見方ができるようになるだろう。

豊富な事例を用いて、デザインの歴史について考察する。ペーパークリップ、ファスナー、缶と缶切り、ポストイットなどなど、考えてみるとよくこんなものを思いついたなあと感心するような日用品の歴史をたどっていくのは楽しい。著者の語りはユーモラスな読みやすいもの。

4582766935フォークの歯はなぜ四本になったか 実用品の進化論 (平凡社ライブラリー)
忠平 美幸
平凡社 2010-01-09

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