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zoom RSS 『サブリミナル・インパクト』 下條信輔

<<   作成日時 : 2010/02/16 00:00   >>

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認知神経科学の知見から、現代社会と現代人を考察する。

悲しいから泣くのか、泣くから悲しいのか。まずこの問いかけがある。意識されたのちの身体反応という図式。しかし、たとえば山の中でクマと遭遇したとき、身の危険を意識してから逃げ出すだろうか。条件反射的にその場から逃げ出して、あとから恐怖を感じる場合のほうが多いのではないか。いわば「からだが理性に先立つ」状態。
ある実験が報告される。二人の異なるタイプの女性の写真を被験者に見せて、どちらを美しいと思うかテストした。視線の動きを追うと、美しいと思うタイプへの注意が、もう一方へのそれよりも多く観察された。ということは、人は好ましいから見るのではなくて、見るから好ましいと思うようになるのではないか。ここから潜在認知の問題を掘り下げていく。

まずは脳が快を感じる音楽について。新奇性と親近性という二つのパターンの組み合わせからなる音楽が人に快をもたらす。音楽から現代文化への言及。視聴覚を刺激するヴァーチャルな文化にふれる機会が多くなるにつれ、感覚そのものが自立化していく。リアリティとは何か。それは、「物理的な現実味とは関わりなく」、「脳内を活性化するもの」と定義される。荒唐無稽な物語でも、脳に刺激を与えるのならリアリティはあるということ。

現代において人は多くの刺激にさらされている。絶対量、変化や速度の過剰、情報量の過剰、選択肢の過剰。この過剰は上限がなく、人は過剰な刺激によって快ではなくてストレスを感じるようになる。商品を購入する際の選択肢の多さはよい面ばかりではない。多くのものから選びたいという選択の自由のために商品が過剰に市場に出回ると、消費者は多くの類似品のなかからひとつを選ぶことを求められる。この選択肢の過剰がフラストレーションのもとになる。過剰な選択肢を支える企業側の広告戦略には潜在意識へのはたらきかけがあり、市場は微妙なかたちで消費者の選択をコントロールしようとする(Amazonの関連商品の紹介などはその最たるものだろう)。人の消費活動は自由とはいいきれず、意識していないレベルで広告戦略に乗せられているのだ。管理と両立する自由の謳歌と、過剰さに疲れ、自由から快適へと流れる人の変化。

政治も市場の戦略と同じように情報の管理がある。中立とはいいがたいマスメディアによって大衆は誘導される。イラクで人質となったのち、生還して「戦場のヒロイン」となった女性兵士がいた。しかしこのストーリーはのちに政権担当者とマスメディアによって作られた虚構だったことが明らかにされる。イラクの大量破壊兵器疑惑も、アメリカ政府や国連の関連機関によってシロと結論された。こうした政治のでっちあげはしかし、あとからばれても構わない。一週間後にウソだとばれたところで、その時点でもう人はイラクに対してマイナスのイメージを抱いてしまっている。そのあとで訂正されたとしても一度刷り込まれたイメージは潜在記憶となり、この潜在記憶は強固に残り続ける。結果、その後も世論に一定の持続的影響をもつようになる。こうした現代の政治手法について著者は、「情動的なメッセージの方が、イデオロギーよりはるかに重要なのではないか」と述べる。

潜在過程にはたらきかける要因に比べたら、意識などほんのささやかなもの。そして本書で知識を得たとしても、当然ながらそれで情報操作から自由になれるわけではない(知識は意識の外に出てしまえば無力だ)。とはいえ、ある程度の抵抗を試みることは可能だ。「マクドの賢い客」というたとえ話が出てくる。マクドナルドの座席が硬いのは客を長居させず店の回転をよくして利益を上げるためだ、という説がある。これが事実だとしたら、どうやって抵抗するか。賢い客は、硬い椅子に座布団を敷き、持ってきた文庫本を読みふける。座布団の快適さと本の世界への没頭によって、店側の潜在意識へのはたらきかけに、同じ潜在意識レベル(われをわすれて読書するという方法)で対抗する。こういう方法で抵抗は可能だと示される。

終り近くに、もしかしたら独創性のある人になれるかもしれない訓練方法が載っている。なかなか曖昧で難しい方法ではあるが。忘却が記憶することの重要な要因になっていることが知れる。こころなどと容易に口にしてきたが、そのこころとは何なのか。


4480064605サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)
筑摩書房 2008-12

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