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zoom RSS 『小説の諸相』 E.M.フォースター

<<   作成日時 : 2010/02/25 00:00   >>

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小説論の古典。

フォースターが1927年にケンブリッジ大学トリニティ・コレッジで行った講演の書籍化。「小説とは何か」について学生たちに語りかけ、彼の見解を述べる。

フォースターは最初に小説を、ある批評家の言葉を借りてこう定義する。「ある程度の長さをもった散文の物語」と。時間が嫌いだったというフォースターは小説を歴史的に見ることをせず、過去200年間の作家が一室に集まり、テーブルに向かっておのおのの作品に取り組んでいる様子を想像するよう学生たちに促す。文学的伝統という要素は排除され、小説家と小説それだけを抽出して、フォースター独自の6つの相から「小説とは何か」について述べていく。

1. ストーリー
小説の基本的な要素にしてもっとも重大な要素。時間にそって出来事が語られる。フォースターによるとそれは「小説の背骨みたいなもの」であり、「初めも終わりもはっきりしない」「サナダ虫みたい」なもの。読者がストーリーを追うのは、「それからどうなった?」という先を知りたい好奇心による。フォースターはこの要素を下等な要素と思っているが、その理由は彼の時間嫌いと無縁ではないだろう。人間には「時間の支配による生活」と「価値(強度)による生活」があり、後者の生活を送るとき、われわれは時間の観念を忘れる(好きなことに夢中になっていたり、恋人とともに過ごすときなど)。しかし小説がストーリーを破壊して「価値による生活」だけを扱おうとすると退屈な作品になってしまう。ストーリーはもっとも原始的でありながら小説を小説たらしめている。われわれが面白い小説といわれて念頭に浮かべるのは、面白さにはいろいろあるけれど、やはりこのストーリーの面白い小説ではないだろうか。

2.登場人物
ストーリーが「それからどうなった?」なら、登場人物は「誰に何が起こった?」という好奇心を読者に抱かせる。われわれはしばしば小説の登場人物を、実在する知人たちよりもリアルだと感じることがあるが、これは作者によって登場人物の心理(「秘められた心の生活」)を覗けるからだ。彼らのすべてを手に取るように知られるからこそ、彼らをリアルだと思える。
フォースターはまた登場人物を2つのタイプに分類する。平面的人物と立体的人物と。平面的人物というのは大方の脇役がそうで、この人物についてはたとえば「何があっても夫を支える妻」というように一言で要約できてしまうような人物があてはまる。一方で立体的人物というのは説得力をもって読者を驚かせるような人物を指す。平面的人物が一度登場してしまえばあとは言動を繰り返すだけなのに対して、立体的人物はストーリーの展開に合わせて常に新しい一面を見せ、読者に新鮮な印象を与える。例としてフォースターはドストエフスキー作品の登場人物たちを挙げる。すぐれた小説にはこの2タイプの人物が登場する。

3.プロット
ストーリーの発展したもの。ストーリーが時間の進行に従って事件を扱うのに対して、プロットは事件の因果関係を扱う。「王様が死んで、それから王妃が死んだ」といえばストーリーだが、「王様が死んで、悲しみのために王妃が死んだ」といえばプロットになる。さらに、「王様が死んで、それから王妃が死に、なぜなのかわからなかったが、のちに悲しみのためだとわかった」となると謎を含んだプロットで、これはさらに高度な要素となる。
フォースターはプロットを、ストーリーよりも高級な要素とみなす。なぜならばストーリーはただ「それから? それから?」という読者の好奇心のみに訴えるのに対して、プロットは読者にある程度の知性と記憶力を求めるからだ。前半で提示された謎が伏線となっていて後半になって明らかになる小説があったとして、読者がそれを忘れてしまっていたのではプロットは用をなさない。探偵小説を連想するとわかりいい。

4.幻想
ふつうの小説は、ストーリー(時間)、登場人物(人間)、プロット(論理)の3つの要素から成っているが、この要素から外れた小説もある。幻想小説がそれで、日常生活のなかに天使や妖精や小人などが登場したり、無人島や過去や未来などへ人間を送り込んだりする。管理人の解釈で有名な小説を挙げるならヴィアンの『日々の泡』が相当するだろう。ここには「きまじめな文学では得られない美しさ」があるとフォースターは述べる。ふつうの小説を読むことが博覧会でふつうの展示物を見ることだとすれば、幻想的な小説を読むことは、その博物館の特設会場に展示してある特別展示物を見るようなものだ、と彼はたとえ、この要素を楽しめるのは読者それぞれの趣味の問題だとしている。この要素をもった小説として、スターンの『トリストラム・シャンディ』、ジョイスの『ユリシーズ』が挙げられている。

5.予言
限られた作家のみがもつ要素で、フォースターの説明は漠然としているが、小説世界の広がりのようなものを読者に感じさせるものか。ドストエフスキー、メルヴィル、ロレンス、エミリ・ブロンテの4人が予言的作家であるとし、彼らの小説を読むときは謙虚さとユーモア感覚の停止が必要とされる。予言者は己の世界観を託して「歌う」のであり、その歌声を聴くためにはユーモア感覚は邪魔になるのだ。フォースターはここで『カラマーゾフの兄弟』の、ミーチャが「童の夢」を見る場面を取り上げ、この場面がもつ感動的な調子こそ予言の要素だと述べる。ここでは全人的な愛とあわれみの世界が暗示され、読者を圧倒する。

6.パターンとリズム
小説の構成に関わる要素。どちらも読者に美的な快楽を提供する。パターンは小説のかたちに関わり、リズムは小説の進行に関わる。登場人物の立場が最初と最後で逆転したり、照応関係にあったりするのがパターン、ある言葉なり調子なりをストーリーの展開とともに繰り返したり変奏したりするのがリズム、と管理人は解釈した。

以上の6つの観点から分析されるユニークな小説論。古い本ゆえどれほど実用性があるかは疑問だが、登場人物について述べた部分などは現在でも有効性を失っていないと思うし、小説家志望の人にとっては示唆に富む内容ではないだろうか。

4622045788小説の諸相 (E.M.フォースター著作集)
Edward Morgan Forster
みすず書房 1994-11

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