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zoom RSS 『ハムレット Q1』 シェイクスピア

<<   作成日時 : 2010/03/04 00:00   >>

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海賊版あるいは原型。

シェイクスピアの『ハムレット』は3種類のテキストがある。作家の死後に刊行された全集に収録されているファースト・フォリオ版(F1)。全集に遡って作家の存命中に刊行されたファースト・クオート版(Q1)と、その翌年に刊行されたセカンド・クオート版(Q2)。フォリオおよびクオートというのは本のサイズで、全紙を半分に折ったサイズのがフォリオ、四折のサイズがクオート。おなじ作品でありながら各テキストで分量や台詞が異なっており、分量だけで見た場合、短い順にQ1、F1、Q2となっている。とくにQ1の短さは際立っており、このテキストはほかの2つのテキストよりも軽視されてきた経緯がある。

訳者によると最近までは、Q1は海賊版で、Q2は作家による生原稿、F1がシェイクスピア自身の劇団による上演台本として扱われてきたとのこと。Q1の海賊版というのは、『ハムレット』が初演当時から非常な好評を博したのでこれを出版したいと考えた出版者が現れ、劇団員以外の雇われの役者が記憶を頼りに内容をでっち上げ、シェイクスピア作と詐称して出版したのではないかという推測。だがこの推測には疑問があって、Q1の翌年には真正のテキストと謳ったQ2が出版されるのだが、Q1もQ2も同じ出版者が出版しているのだ。こんな迂闊な真似をする出版者があるだろうか。またQ1では一部の登場人物の名前がほかの版と異なっているのだが、そうする理由もとくにない。シェイクスピアの作品はその大半に種本があり、『ハムレット』も然り。現在ではQ1は海賊版ではなく、シェイクスピアが種本『ハムレット』を参考にしつつ改変していった創作過程の初期を知る手がかりと見られるようになっている。Q1→Q2→F1と順を追い、『ハムレット』は創られたと。

あらすじについていまさら詳しく述べるまでもない。デンマーク王国のエルシノア。急死した王に代わって彼の弟のクローディアスが王位に就き、その傍らにはかつての兄嫁ガートルードがいる。王子ハムレットは悲しみに沈むある夜、父親の亡霊と対面する。亡霊は告げる。自分は弟に毒殺された、復讐を遂げてほしいと。ハムレットは狂人の振りをして機を窺い、ついに復讐を果たすも自らも息絶える。

上で述べたようにQ1はとにかく短い。文庫本にして150頁に満たない。展開はスピーディで、ほかの版と異なりハムレットの台詞は少なく、短い。有名な「生か死か、それが問題だ」に続く箇所もいたってシンプル。しかしこの無駄(というと語弊があるが)が削ぎ落とされたスピーディな『ハムレット』は魅力的だ。管理人はほかに福田恆存訳の新潮文庫と松岡和子訳のちくま文庫を読んでいるが、狂気を装って時を稼ぐ展開を長く感じて、それがこの劇を多くの解釈を誘うスフィンクスたらしめていると思ったものだ。Q1のテンポのよさはシェイクスピアの思想は犠牲にされてしまったかもしれないが、代わりに冒頭から最後まで一息に読めるスピード感をもっている。

戯曲は演じられるためにある。Q2やF1と異なり分量の少ないQ1はまた、上演台本としても適している。ほかの版だとどうしても上演時間が5時間を超えてしまうために、上演の際にカットせねばならない部分が出てくる。しかしQ1ならばカットせずとも上演できる。この上演台本としての適性から、訳者はQ1を翻訳しようと思いたったとのこと。

4334752012ハムレットQ1 (光文社古典新訳文庫)
William Shakespeare
光文社 2010-02-09

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そういえば中期の太宰にこんな作品があった。ポローニアスが息子レアティーズの船出のときにする忠告がおかしかった記憶がある。あとは忘れた。
4101006121新ハムレット (新潮文庫)
新潮社 1974-03

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