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zoom RSS 『モレルの発明』 アドルフォ・ビオイ=カサーレス

<<   作成日時 : 2010/05/23 00:00   >>

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ボルヘスいわく「完璧な小説」。

何処とも知れない無人島。語り手は警察の手を逃れて生き延びるために単身この島にボートでやってくる。彼に無人島の場所を教えた人物によるとここに人が寄り付かないのにはわけがあって、得体の知れない病気の巣であり、この島を訪れた者は身体が外側から内側へと徐々に破壊されてしまうからだという。「爪がはげ、髪の毛が落ち、皮膚や角膜が腐ってゆき、で、一週間か二週間でお陀仏さ」。しかし追手から逃れるためにはもはやこの島へ逃げるしかない。決意した語り手は、相手の制止を聞かずボートを出す。

島にあるのは、かつて白人たちが作った博物館、礼拝堂、プール。今では住む人のいない島の施設は荒廃している。語り手は博物館の食料保存庫にあった食料を食い尽くしたあとは、木の葉や根を食って生命をつなぐ。

ある日、不思議な光景が目撃される。それまで誰もいなかったはずの島に、突如として古風ななりをした一群の人々が姿を現したのだ。彼らは蓄音機から流れる音楽に合わせて踊る。突然の来訪者に驚いた語り手は、彼らに見つからないよう身を潜める。物陰から彼らを観察する。そのなかにいた一人の美しい女に、彼はこころを奪われる。彼女を眺めるために出かけていき、ついには彼女に自分の存在を知らせようとする。

しかしここで信じがたいことが起きる。彼ら来訪者たちに、語り手の姿は見えていないようなのだ。まるで語り手が幽霊であるかのように、来訪者たちは彼に気づかない。これは警察の罠なのか、油断していて捕えるつもりなのか、そう疑う語り手。

やがて語り手が思いを寄せる女の名が明らかになる。彼女の名はフォスティーヌ。そして彼女にしつこくつきまとう男がいて、彼の名がモレルということも知られる。語り手はモレルの不在を縫ってフォスティーヌに接近するが、やはり彼の存在は認知されない。いったい来訪者たちは何者なのか。この島で何が起きているのか。

小説の後半にいたってこの謎が解明される。モレルは科学者で、この島で永遠を探求するある実験を行っていた。来訪者たちはそのために捧げられた人身御供だった。彼らが去ったあとに残されたモレルのメモを発見した語り手はとうてい信じがたいこの実験の真相を知り驚愕する。なぜ語り手が彼らには見えなかったのか、理由が明らかになる。この島に蔓延する得体の知れない病気の正体も。

モレルの発明は、叶わない愛を抱えた男の狂気によって成っていた。手に入れることのできないフォスティーヌをわがものとするための、それは手段だったのだ。フォスティーヌの正体を知った語り手は、モレル同様に自分の愛もまた叶わない、不可能なものであるのを知る。彼が愛したのは幻影の女。言葉を交わすことも、肌に触れることもできない。永遠に憧れ、想い続けるためだけの存在。この愛の不可能に直面して、語り手は自らの生命と引き換えに、彼自身も永遠の幻影の一部となるのを選択する。

小説はSF的なガジェットを用いて推理小説めいた展開を見せる。この謎の部分が魅力的なのでふれないようにすると曖昧な感想しか書けない。一言でいえば痛ましい愛の物語だ。語り手もモレルも、ついにフォスティーヌをわがものとすることはできなかった。ゆえに幻として愛したのだ。

届かなかった想いは、どこの墓場で朽ちていくのか。

4891766964モレルの発明 (フィクションの楽しみ)
Adolfo Bioy Casares
水声社 2008-10

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幻影としての女、ロマンチックな科学装置という面ではこのリラダンとも通じる。「われわれの神が科学的であるのなら、われわれの愛も科学的であってはいけないいわれはありましょうか」。
4488070043未来のイヴ (創元ライブラリ)
斎藤 磯雄
東京創元社 1996-05

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絶海の孤島における実験、モレルという科学者の名、『モレルの発明』は『モロー博士』へのオマージュととれる。
4488607071モロー博士の島 (創元SF文庫)
H.G. Wells
東京創元社 1996-09

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