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zoom RSS 『スローターハウス5』 カート・ヴォネガット・ジュニア

<<   作成日時 : 2010/06/12 00:00   >>

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スローターハウスとは屠殺場のこと。

主人公のビリー・ピリグリムはあらゆる時空を横断する時間旅行者。ビジネス的に大成功を収める検眼医になり、トラルファマドール星人に誘拐されてかの星の動物園に収容され、アメリカ軍兵士として第二次世界大戦に従軍したのちドイツ軍の捕虜となりドレスデン無差別爆撃を体験する。著者自身が経験したこの大虐殺を中心に、運命に翻弄される人間存在の寄る辺なさをあくまでドライにユーモラスに描く。

ビリーが接触する異星人トラルファマドール星人は地球人よりも広く時間を認識できる。地球人が時間をあくまで歴史上の点としかとらえられないのを、彼らは線としてとらえることができる。発生から消滅まで、時間をすべて視野に収められる彼らにしてみれば、かつて存在したものはいつまでも存在し続ける。この時間認識を知ったビリーは戦争で同胞たちの命が奪われていくのを見ながらも、トラルファマドール的時間観によって己を慰める。現時では失われた命とはいえ別の時間では今も生き続けているのだ、と。重くのしかかっていた戦争体験を消化するのにこのような手段を発明せねばならなかった著者の痛ましさを思う。

作中では幾度も「そういうものだ」という一文が繰り返される。諦観をもって運命を受容するのにこれ以上の言葉はない。「そういうものだ」と呟くことでビリーは、著者は、読者は作中の運命を受け入れる。この先も生きていくために。登場人物の一人が首にかけている銀鎖のロケットに書かれている言葉は、「神よ願わくばわたしに変えることのできない物事を受けいれる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とをさずけたまえ」。これもまた運命受容の祈りだった。

トラルファマドール星は『タイタンの妖女』にも出てくる。ほかにもこれまで著者が書いてきた小説の登場人物が現れ、初期ヴォネガットの集大成的な作品になっている。

415010302Xスローターハウス5 (ハヤカワ文庫 SF 302)
伊藤 典夫
早川書房 1978-12

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