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zoom RSS 『アドルフ』 コンスタン

<<   作成日時 : 2010/06/19 00:00   >>

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人間の心理を暴き出す。

将来有望な若者アドルフは何をしても空虚な自分をもてあましていた。ある席で、友人が一人の女の気を引こうと躍起になっているのを知り、自分はまだ恋愛をしたことがなかったと気づいたアドルフはこれを体験したいと思うようになり、伯爵の愛人でありアドルフより十歳年上のエレノールを誘惑しようと決意する。未だ美貌は衰えず、慎み深いエレノールははじめのうちこそ若者の接近を警戒するものの、若々しい一途な愛情のまえについに陥落する。アドルフは女をわがものとし、満足を覚える。しかし今度はエレノールのほうがアドルフに夢中になる。彼女はアドルフのために伯爵との裕福な生活も、二人の幼い子どもも、社交界での評判も捨てて自らの愛情を示す。そのときからアドルフは女の存在を負担に感じるようになる。彼は故国を捨て、唯一の肉親である父を捨て、外国でひっそりと女と暮らしはじめる。その間、一刻も早くエレノールと別れようと決意するのだが、生来の気弱さのために彼女を捨てられない。情にほだされてずるずると関係は続いていく。もはやアドルフ以外に頼るもののないエレノール。愛情は感じていないが同情のためにエレノールから離れられないアドルフ。この二人の泥沼の関係はどちらかの死によってしか終われないだろう。

アルベール・コーエンの『選ばれた女』を別格とすれば、これほど緻密に赤裸々に恋愛における男性心理を扱った小説はほかにないと思っている。そもそものはじめからアドルフの恋は退屈しのぎからはじまった。彼はエレノールを篭絡するために手紙を書くが、そこには「恋そっくり」の感情はこめられていても恋の感情はこめられていなかった。エレノールから拒否されると、「恋したふりをしていい気になっていたのに、突然その恋心が物狂おしいまでにひしひしと感じられてきた」と書かずにはいられない。手に入らなければ満足できず躍起になって相手を求め、ひとたび手に入れてしまえばもはや相手は重荷でしかない。これを身勝手と切り捨てるのはたやすいが、恋愛と呼ばれる欲望にはこういった側面があるのは否定できない。不幸なのは標的とされたエレノールだけではない。この倦怠、この憂鬱にとらわれたアドルフもまた不幸な病者なのだ。

空虚を抱えた人間の心理を精緻に解剖して、短い分量ながら多くのものを与えてくれる。

4102073019アドルフ (新潮文庫)
コンスタン Benjamin Constant
新潮社 1954-06

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