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zoom RSS 『恋愛指南』 オウィディウス

<<   作成日時 : 2010/08/06 00:00   >>

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2000年前のローマ人が書いた恋愛ハウツー本。

『変身物語』を著した詩人がユーモアたっぷりに実践的な恋愛の技術を指南する。当時のローマは「金色燦然たる」「愛の都市」であり、そこでは男女が淫蕩なたわむれの恋に興じていた。「やさしき恋の戯れ人」と呼ばれた詩人は本書で(当時有効な)恋愛の手ほどきをしているが、それを後世に生きるわれわれが読めば爛熟した古代の都の恋愛模様を知るユニークな資料となる。

本書はぜんぶで3巻から成っている。1巻は「男はいかにしてこれという女を見つけ、ものにするか」、2巻は「ものにした女をいかにして保持するか」、3巻では「女はいかにして男を籠絡するか」が述べられる。

愛というものは技術によってこそ、永続きするものなのである。


当時有効だった色恋の手管が披露されているわけだが、こんにちでも通用する部分は多くある。まず冒頭近くで、詩人は若い男たちに、愛する女を得るためには自分から探しに行けと当然のことを指南する。(たとえば『天空の城ラピュタ』のように)いい女がこまやかな空気を抜けて君のもとへ天下ってくることなどないのだから、と。
ああ、女のほうから言い寄ってくるのを期待しているような男は、そんな若者は、自分の容姿に自信をもちすぎているというものだ。男がまず先に近づくのだ、男のほうから愛を請うことばを吐くのだ。女に甘いへつらいのことばを心楽しく聞かせるがいい。

そして実践的な指南へとうつる。清潔をこころがけよ、身だしなみに気を配れ、飲酒の節度を守れ、こちらから言い寄るべきだが相手の女が増長してきたら去る振りをして執着心を煽れ、友人に恋人の魅力を吹聴するな(その話を聞いた友人が恋敵となりかねないから)、顔や容姿といったいずれ衰える魅力ばかり磨くのではなく才気を備えよ、隠し事が露見してもシラを切りとおせ、相手の女が浮気しているのを知っていても知らぬ振りをして騙されていろ、順境にあってだれてきた女の愛を再びかきたてるには嫉妬させろ、女の欠点はすべて目に入らないふうを装え、性交のよろこびはゆっくりと時間をかけて味わえ等々…。これらの指南は現在でも通用する普遍的なものだろう。とくに最後の指南は少し前によくいわれたスローセックスと似ていておかしくなる。

上は1、2巻の男への指南だ。3巻は女への指南になる。時の経過は早いゆえ若いうちに大いに恋愛を楽しめ、化粧はそれとわからぬようにしてこそ美しい、化粧をしている姿は見苦しいから他人には見せるな、恋人は長すぎない程度にじらせ、陰気な顔をするな、飽きられないためにはたまには男の求愛を拒み身体を許すな、宴会に遅れて行けば醜女とて酔った目にはそれほどとも映らないだろう、容姿の欠点は隠すようこころがけろ…。身も蓋もないといってしまえばそうなのだが、それだけに効果的な指南になっている。

むろん今となっては通らない部分もある。どんな男からでも言い寄られれば女は喜ぶだとか、減るものではないのだから女たちは言い寄ってきた男たちには身体を許してやれ等の指南は当時の退廃的なローマであればこそのものだろう。詩人が本書を執筆した時期は皇帝アウグストゥスによる綱紀粛正が行われ、これの賛同者たちは当代を道徳的に堕落した時代と断じ、初期ローマの質実剛健を称えた。しかし「愛の詩人」にとっては過去は野蛮な時代でしかなく、洗練された文化が支配的となった当代こそ「金色燦然たるローマ」と称えるべきものだった(のちには皇后でありながら夜な夜な春を売るメッサリナのような女が登場する)。大らかな気持で古代の人々の愛のたわむれを楽しむのが本書の適切な読みかただろう。

本書にはのちに詩人が執筆することになる『変身物語』を準備するかのように多くのギリシア神話が挿入されている。現今の恋愛ハウツー本を読むよりも、この薄い一冊を読んだほうが身のためになるかもしれない。本書では恋はあくまで男から求めるべきものとして扱われる。受身の「モテ」ばかりが注目される昨今に読むと新鮮な発見があるのではないか。
恋愛は戦いの場である。もたもたしている奴らは退却しろ。この軍旗は臆病者どもが護るべきものではない。夜も、凍てつく冬も、果てしない行軍も、猛烈な苦痛も、あらゆる労苦がこの甘美な陣営の中にひそんでいるのだ。


4003212037恋愛指南―アルス・アマトリア (岩波文庫)
オウィディウス Ovidius
岩波書店 2008-08-19

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