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zoom RSS 『山躁賦』 古井由吉

<<   作成日時 : 2010/12/17 00:00   >>

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古歌によってつながれる連作短篇集。

比叡山、高野山、京都など近畿地方の神社仏閣をめぐる旅から本書は書かれた。紀行文的な体裁をとっているが、古歌の声に導かれるような幻聴があり、夢ともうつつともつかない曖昧な領域へと読む者を誘う。

古井氏の文体は日本語として異形のもので、散文ではあるけれども詩の趣が強い。散文と詩の境界がどこにあるのか管理人には判別できないけれども、両者の境界を切り崩し、より日本語による表現の幅を広げようという試みが氏の創作の根底にあるように思っている。

山歩きに慣れた語り手は地形を読むのに長け、その眼が旅の助けとなる。本書中では幾度も谷について言及されるが、谷とは空気の淀む場所であり、その不穏の空気がこの世のものならぬ躁(さわ)ぐものたちを呼び寄せるように思われる。平家物語中の僧侶、何年も以前に一度だけ寝た女、寝台の上で眠る大男。ついには語り手自身が幻の姿となって山の上から遠く平地に見物される。空気と声とによって生まれる幻視が自明のようにすぐそばにある。もはや死者と生者とを隔てる壁はなく、自分自身さえあやふやな存在となってしまう。

不穏な空気と、そのなかにあってはしゃぐこころの両方が本書の基調としてある。語り手は亡霊に語りかけるだろう。
「なあ、いかめ房よ、どうせ幽霊どもを集めるなら、こんな陰気臭いことではなくて、もっと派手な、面白い躁ぎをやろうじゃないか」


古井氏の文章を読んでいる時間が長くなるにつれて眠りを誘うような満足がある。強い酒を飲んだときの心地とよく似て。

4061984535山躁賦 (講談社文芸文庫)
古井 由吉
講談社 2006-09-09

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