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zoom RSS 『黒い蜘蛛』 ゴットヘルフ

<<   作成日時 : 2011/02/10 00:00   >>

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人間の弱さの象徴としての蜘蛛。

かつてスイスのある村は横暴な領主によって統治されていた。領主は農民たちを奴隷のように扱い、困難な労働に酷使することを当然と考えていた。領主の課す無理難題に疲弊しきった農民たちの前に、一人の謎めいた男が現れる。彼は、農民たちが課せられた労働を代わってやってもよい、しかし条件として洗礼前の幼児が一人ほしいと告げる。農民たちは断るものの、このままでは死が待っているのを悟ったある女が、独断で彼と契約する。男が悪魔だとも知らずに。

悪魔は約束を履行する。そうなると報酬として幼児が必要になる。しかし農民たちはことをあえて楽観的にとらえ、いざとなれば悪魔を出し抜けると見くびり、生まれた幼児に洗礼を施す。すると、契約した女の顔に黒いしみができ、そこからわらわらと大きな黒い蜘蛛が大量に這い出してくる。蜘蛛はまず家畜を全滅させたのち、人間たちに襲いかかった。蜘蛛の現れるところには叫びと死があった。

農民たちは集い対策を講じる。そこでは責任のたらい回しと、自らが助かるためには他人を犠牲にしようという利己心がむき出しになる。勝手に悪魔と契約した女を責め立てる。そして、次に生まれた赤子を悪魔へ捧げようと結論する。赤子の母親は必死で抵抗するが空しく、赤子は奪われる。司祭は恐怖に狂った村を静め、悪魔を退けるという難題に立ち向かうことになる。

ゴットヘルフは本作を、スイスのエメンタール地方に伝わる民話をもとに創作したという。けれども、その民話がいかなるものであったのかは未だわからないと訳者は解説で述べている。
ヨーロッパは中世において幾度かペストに襲われた。「黒死病」と呼ばれたペストの災厄が、黒い蜘蛛に重ねられているだろう。それに加えて、困難に直面した際には他人を犠牲にして自ら助かろうとする人間の利己心、責任転嫁せずにはいられない人間の弱さ、そういった人のこころの暗黒面の象徴としても黒い蜘蛛は機能しているだろう。

(略)彼らはふるえながら寄り集まり、嘆き合った。互いに身を寄せ合い、家に帰ろうという気にはなれなかった。しかしやがて言い争いが始まり、互いに罪をなすりつけ合った。誰もが、自分はやめろと言った、自分は警告した、などと言い張った。誰もが、罪のある者に罰が下るのは仕方のないことだが、自分と自分の家族は罰を免れたいと思った。そしてこうした恐ろしい危惧と争いのなかにあっても、彼らは、新しい、罪のない犠牲が見つかりさえすれば、自分だけは救われることを期待して、その犠牲にたいしてまた罪を犯したことであろう。


人のこころこそが悪魔を生む。

4003246411黒い蜘蛛 (岩波文庫)
ゴットヘルフ 山崎 章甫
岩波書店 1995-05-16

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