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zoom RSS 『ネクロフィリア』 ガブリエル・ヴィットコップ

<<   作成日時 : 2011/04/30 00:00   >>

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エロスとタナトス。

骨董店を営む語り手のリュシアンは屍体愛好者だ。彼は老若男女を問わず気に入った屍体と同衾する。屍体は腐敗を免れない。さんざん愛の行為を繰り返したあとで崩壊していく「恋人」を、語り手はセーヌ川に流して別離する。そして新しい「恋人」を求めて墓地をさまよう。

小説は語り手の日記の形式になっている。彼の屍体愛好は倒錯的というよりも哲学的なもので、屍体への愛は何の見返りも要求しないからより純粋な愛情なのだという認識に基く。至高の愛とされる神への愛すら見返りを要求するというのに。ミラン・クンデラならば同じ理由で動物たちへの愛こそがそうだと述べるだろう(『存在の耐えられない軽さ』)。

小説の分量は130頁ほどで、筋はいたって単調なもの。「恋人」と出会い、その特徴を述べ、愛で、別離の哀しさがある。屍体愛好者である語り手はその嗜好から推察できるように死を恐れていない。死に魅せられている。
死は長い眠り、眠りは短い死。プルーストならば、川端康成ならば、眠る女をこそモノとして見、そのときに全的な所有が可能になると述べるだろう。リラダンならば完璧に理想的な人造人間を創造するだろう。生きている人間は常にわれわれを裏切り続ける。その裏切りこそが、決して所有できない愛の不可能性こそが、人を愛することの醍醐味ではないだろうか。眠る女にせよ、人造人間にせよ、屍体にせよ、そんな相手を所有したところで、愛したところで、果てには自閉した自己愛の世界しかないだろう。

本作は変態的な性欲を扱ってはいるがそれほどのきわどさはなく、戦慄する気迫も感じなかった。語り手の叙述は淡々としており、といってそこにはたとえばファウルズの『コレクター』のような狂気の不気味さはない。いや、語り手は常に正気であり明晰だから、あるいはそこにこそ本作の怖さはあるのかもしれないが。

4336051097ネクロフィリア
ガブリエル ヴィットコップ 野呂 康+安井 亜希子
国書刊行会 2009-05-22

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4087603512存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)
ミラン・クンデラ 千野 栄一
集英社 1998-11-20

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4087610284失われた時を求めて 9 第五篇 囚われの女 I (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
マルセル・プルースト 鈴木 道彦
集英社 2007-01-19

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4101001200眠れる美女 (新潮文庫)
川端 康成
新潮社 1967-11

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4488070043未来のイヴ (創元ライブラリ)
ヴィリエ・ド・リラダン 斎藤 磯雄
東京創元社 1996-05

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4560070601コレクター (上) (白水Uブックス (60))
ジョン・ファウルズ 小笠原 豊樹
白水社 1984-07

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コメント(1件)

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ああ「ネクロフィリア」と言う分野がありましたね。どうしても女性より男性の方が多そうな感じ。江戸川乱歩「人でなしの恋」もでしょうか?
Bianca
2011/05/03 10:11

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