epi の十年千冊。

アクセスカウンタ

zoom RSS 『ヴォイツェク ダントンの死 レンツ』 ビューヒナー

<<   作成日時 : 2011/05/21 00:00   >>

トラックバック 0 / コメント 1

圧巻。

ゲオルク・ビューヒナーは24歳で夭折した19世紀ドイツの劇作家。彼が残したわずかな作品のうち、短篇小説「レンツ」と戯曲「ヴォイツェク」(未完)、「ダントンの死」を収録する。

「レンツ」は、一時はゲーテと並んで18世紀ドイツ文学を代表する作家といわれたヤーコプ・レンツの生涯を小説化したもの。レンツはすぐれた戯曲を何作も発表したが、精神分裂症的な狂気の発作に襲われるようになり、生涯安定した生活を送れず、最後には活躍の場を求めて訪れたロシアで路上死するという悲惨な生涯を送った。「レンツ」はこの作家が狂気の治療のため医療の心得のある牧師を訪ねて山越えする場面から始まる。細かな風景の描写がやがて内面の気分と同化していく叙述、孤独感と強迫観念から発する狂気、不安と不安を取り除けないことから生じる焦燥感と絶望感。一人の人間の内部を克明に述べるこの短篇の迫力に戦慄を禁じえない。作品は未完だが、著者が参照した資料が収録されているのでドキュメント的な筋は把握できるようになっている。

「ヴォイツェク」。実際に起きた殺人事件をモデルに、一人の貧しい男が嫉妬から女を殺すこの戯曲では貧富の対立が主題のひとつとしてある。富める将校がいくらモラルを説こうと、貧しい兵卒のヴォイツェクには届かない。この貧者であるヴォイツェクただ一人が思考する人物として劇中に配置されている(彼は医者からは「お前は精神錯乱だ」といわれる)。殺人へといたる情念の劇。短い場面をスタッカート的にたたみかけ重ねていく斬新な手法が疾走感を生んでいる(この劇手法は「ダントンの死」にも共通する)。

そして理想に破れ、退屈のうちに生きるかつての英雄を主人公とした革命劇「ダントンの死」。もはや理想は見出せず、血で血を洗う戦いの日々は呪いでしかなく、盟友は今では敵となり、従容として断頭台に赴くダントン。目まぐるしく変転する場面、多彩な登場人物、理想と現実の衝突、英雄たちと市民たちを隔てる壁(この戯曲ではダントンの死は裁判の結果というより民衆の気分によって決定されたかのような場面がある)。迷い惑う男たちに比べて、昂然と共死にを選ぶ女たちの情熱的な生きかたが感動を誘う。著者はこの作品を21歳のとき、わずか5週間で書き上げたという。

収録された作品すべてにかなりの量の訳注がついている。とくに史劇である「ダントンの死」に関しては巻末に関連人物一覧が付いており歴史に疎い読者としては大いに助けられた。

4003246918ヴォイツェク ダントンの死 レンツ (岩波文庫)
ビューヒナー Georg B¨uchner
岩波書店 2006-10-17

by G-Tools


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
「ヴォイツェク」「ダントン」とも映画を見てますが、そういう作者がいたのですね。24歳で行路死、分裂病、なんとも魅力ある(?)作家と言う気がします。
Bianca
2011/05/21 09:31

コメントする help

ニックネーム
本 文
『ヴォイツェク ダントンの死 レンツ』 ビューヒナー epi の十年千冊。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる