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zoom RSS 『危険な関係』 ラクロ

<<   作成日時 : 2011/09/06 00:00   >>

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危険なゲーム。

未亡人のメルトイユ公爵夫人は情人ヴァルモン子爵に、姪のセシルを誘惑するようそそのかす。セシルの縁談相手であるジェルクール伯爵はかつてメルトイユ公爵夫人の情人だったが彼女を捨てたのであり、これは彼への復讐だった。ヴァルモンは貞淑なツールヴェル法院長夫人を誘惑するかたわらで、情人の願いを容れてセシルへの誘惑を開始する。二人は恋愛を支配―被支配のゲームと考えている同類の背徳者で、目的のためには手段を選ばない。ヴァルモンは巧みに誘惑を進め、世間知らずなセシルはあっさりと陥落する。誘惑に抵抗し続けるツールヴェル法院長夫人もついにはヴァルモンに身を委ねる。けれどもヴァルモンはその後セシルを想い続ける青年との決闘に敗れて命を落とし、メルトイユ公爵夫人は裁判に負けて破産したうえ病気にかかって美貌を損なってしまう。

175通の書簡からなるこの小説の中心主題となるのは悪徳と美徳の戦いだ。メルトイユとヴァルモンは悪徳の側であり、ツールヴェル法院長夫人とセシルは美徳の側にいる。上でも述べたように勝利するかに見えた悪徳は運命によって報いを受ける。しかし貞淑なツールヴェル法院長夫人は失意のために狂死してしまうし、若いセシルは自らの過ちを悔い修道院に入る。彼女とプラトニックに愛し合う青年は、セシルが去ったために異国へ旅立つ。悪徳と美徳の戦いはこうして勝者を残さず、無常を感じさせるような結末を迎える。最後の書簡でセシルの母親はこう述べるだろう。
禍いを防ぐにさえ足らぬ人間の知恵は、その禍いを慰めるにはなおさら不十分であることを、今しみじみと感じております。


ヒロインが恋愛をアイスクリームにたとえるのはキャメロン・クロウ監督の映画『エリザベスタウン』で、彼女は「甘くておいしいけれど五分で溶けてしまうから」と謎ときする。幾度かの失敗ののちに感情に任せた恋がいかに愚かか学びながら、いざ恋に落ちてしまえばそんなことはきれいに忘れている。われわれはできることより知っていることのほうがはるかに多いのだ。ツールヴェル法院長夫人がヴァルモンに屈するのは読んでいて少し辛かった。

メルトイユ公爵夫人にもヴァルモンにも恋愛はゲームでしかない。ツールヴェル法院長夫人にとっては避けねばならぬもの、セシルにとっては憧れだった。人間心理を知り尽くしたメルトイユ公爵夫人とヴァルモンにとって彼らは快楽の生贄でしかない。愛のささやきと冷たい仕打ちに二人の生贄は徹底的に弄ばれる。誘惑に抗しながら陥落したのちは愛にしがみつこうとする女のこころ、押しと引きを巧みに使い分ける誘惑者の手管、これらを書ききって本作はフランス心理小説を代表する一作とされている。感情を読者に伝えるのは誰かが誰かにあてた手紙で、ここで登場人物たちはときに自身の本音を吐露し、ときに相手を騙すために自身を偽る。背徳者たちの手紙が偽りに満ちているのは当然ながら、恋に直面するのを恐れるツールヴェル法院長夫人が自身の感情を誤魔化したり都合よく解釈しているところが痛ましくもおもしろい。

述べられる悪徳を反面教師にして本作を道徳の書として読むことも可能だろう。じじつ序文でラクロはこの点を強調している。読者は登場人物たちの感情の移ろいを目撃したのち、最後は善悪の彼岸にたどり着くだろう。

4003252314危険な関係〈上〉 (岩波文庫)
C.D. ラクロ Choderlos De Laclos
岩波書店 1965-11-16

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4003252322危険な関係〈下〉 (岩波文庫 赤 523-2)
C.D. ラクロ Choderlos De Laclos
岩波書店 1965-12-16

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