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zoom RSS 『ルバーイヤート』 オマル・ハイヤーム

<<   作成日時 : 2011/09/19 00:00   >>

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悩むより楽しめ。

11世紀から12世紀にかけてペルシア(現代のイラン)に生きた詩人の四行詩を100首収録する。現存する写本のうち15世紀のものは500首を越えるが、後代の研究により真贋の判定が進んで写本のなかにほかの詩人の作品も混じっていることが明らかにされ、本書に収録されている100首はその選定結果を踏まえたものになっている。

7世紀にアラブの侵攻によりペルシア王国は400年の歴史を閉じる。ペルシア人たちは王朝の古い宗教であるゾロアスター教からイスラム教へ改宗させられる。しかし新しい宗教の影に古い信仰も忘れられず残ったようだ(ハイネはゲルマン民族における似た問題をエッセイにしている)。ハイヤームの詩は生きることはむなしいとするニヒリズムと、ゆえにいまを楽しめという享楽主義が特色の詩で、享楽の象徴として飲酒が頻出するが、ゾロアスター教では咎められなかった飲酒はイスラム教では禁止されている。
冴えた月の光が夜の衣の裾を裂いた。
さあ、酒を飲め。今に勝る時があろうか。
思い悩まず、この生を楽しむがよい。
やがて月光は、われらの墓を一つ一つ照らしていこう。


王も乞食も等しく、やがて死すべき存在である人間。イスラムでは神は土から人を造ったとされ、死んだのちは埋葬されまた土に還る。土から作られた壺はかつて死んだ誰かの身体かもしれないとする感覚がある。
地表の土砂のひとつひとつの粒子が、
かつては、輝く陽の君の頬、金星の美女の額であった。
袖にかかる砂塵をやさしく払うがよい、
それもまた、はかない女の頬であった。

こうした「土から土へ」と繰り返しめぐる死生観も詩を理解するのに必要だろう。

ハイヤームは数学者として地方の王朝に仕えたのち、新しい暦(ジャラリー暦)の作成に関わる。のち職を失いメッカ巡礼に赴いて、晩年は郷里ニーシャプールで読書や詩作に耽って生涯を終えた。ほかの詩人たちのような長編詩は書かず、もっぱら四行詩のみを書いた。本書に収録されている詩の順番がどういう選択によるのかはわからないけれども、冒頭から順を追って読んでいくと、苦に満ちた生のむなしさと懐疑に憑かれた詩人が、運命は神のさだめなのだからとこれを受容して、限りある生のただいまこのときを楽しもうと読者に呼びかけて終わる。
われらが消えても、永遠に世はつづき、
われらの生の痕跡も、名ものこりはしまい。
われらが生まれるまえ、この世に欠けたものはなにもなく、
われらの死後、なんの変化もあるまい。

この嘆きは享楽への誘いに変化していく。
さあ友よ、明日を悲しむのはやめよう。
人生のこの一瞬を恵みと思おう。
明日この古びた宿を後にすれば、
われらは七千年前の旅人たちの仲間になるのだ。


ハイヤームは当時数学者、天文学者として世間に認識されていたが、その生涯が後代に伝わっていくうちに彼の詩に興味をもつ者が現れる。彼の詩が世界に浸透していったのは、英国の詩人エドワード・フィッツジェラルドによる英訳の功績が大きいという。19世紀末ヨーロッパの世情がこの東方の詩の受容に幸いしたと思われる、と訳者はあとがきで述べている。

沈滞の雰囲気が濃い現代の日本で本書を読むことに意味はあろうか。ハイヤームは決してお気楽な享楽を歌ってはいない、その詩の根底には詩人を骨がらみ冒していた懐疑と悲観があり、ゆえに慰めを与えてくれるかもしれない。

なお本書は全部で8章にわかれており、各章の冒頭に訳者による短いエッセイが収録されている。詩と関連する内容ではあるが「ルバーイヤート」の流れを断ち切ってしまうのでこれは巻末にまとめるなどしたほうがよかったのではないか。訳は平明で、細かな注もついており理解しやすくなっている。

458276679Xルバーイヤート (平凡社ライブラリー)
オマル ハイヤーム ‘Umar Khayyam
平凡社 2009-09

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
井伏鱒二の流麗な日本語訳や太宰治の小説内での引用などで、オマル・ハイヤームには親しんできました。私自身は酒は飲みませんが、かれの人生観には共鳴するところが大きいです。数学や天文学の学者だったんですね。
Bianca
2011/09/22 13:22
>Biancaさん

ハイヤームの詩の根底には厭世的、虚無的なところがあって、それを受けいれたうえでの享楽であって共感を誘われますね。
epi
2011/09/23 07:22

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