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zoom RSS 『アンデルセン童話集』 アンデルセン

<<   作成日時 : 2011/11/21 00:00   >>

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再会する物語。

「おやゆび姫」「皇帝の新しい服」(はだかの王様とも呼ばれる)「丈夫なすずの兵隊」「みにくいアヒルの子」「マッチ売りの少女」「人魚姫」「絵のない絵本」など有名な作品を書き、全世界で親しまれている偉大な童話作家の作品を24篇収録する。多くの人がかつて幼いころに読んだだろう作品を再読して意外だったのは、童話という語に付きまとうような健全さのイメージとかけ離れて漂う頽廃の香りだ。死の予感とエロスの匂い。ゴブリンを魅了する「妖精の丘」の妖精たち、美しい夢を見ながら雪の積もる路地に斃れる貧しい少女、すべてを捨ててすがりついた男に想いを届けられず海の泡と消える人魚。再読して、かつてそういう話なのだと素直に読んだ物語がどれほど恐ろしいような光をそのうちに隠していたのかを発見して驚く。多くの作品に魔法や魔法使いが登場してそれが登場人物たちを翻弄したり魅了したりするのだがそれらを素直に読ませてしまうというのがアンデルセンによる魔法とも思えるわけで、やはり読書とは魔法にかかるということであり、優れた作家は魔法使いであるのだと知れる。そうして驚きつつ物語の完成度の高さに感嘆する。「皇帝の新しい服」に人間の愚かしさを見、「丈夫なすずの兵隊」や「人魚姫」に凝縮された恋愛悲劇を見、「みにくいアヒルの子」や「雪の女王」により良き生への信頼を見る。アンデルセンの物語の豊穣さを再読によって知る。

訳者によるとアンデルセンの作品には「子どもにふさわしくない死のにおいや性への言及にあふれているため」、多くの国で「文章表現が省略されたり、改ざんされたりした」という。死はともかく直接的な性への言及は本書にも見当たらない。けれども残酷な表現や募る恋情の背後にはエロスが匂う。「旅の道連れ」に登場する残虐な姫にしても、想う王子のために家族も声も捨てる人魚姫にしてもなんと妖しい魅力をもっていることか。「人魚姫」と同じく人外と人間との悲恋物語であるフーケーの『ウンディーネ』もエロスの匂い濃い作品だった。

本書にはアイルランドの画家ハリー・クラークの挿絵が添えられている。その耽美的で絢爛な絵(とくにカラー作品)にはじめはこれがアンデルセンなのかと違和感をもったが、だんだんと慣れていくにつれその妖しい美しさが、大人に改めて発見される童話にふさわしいと思うようになった。彼の絵を添えて1916年に出版されたアンデルセンは評判も上々で、出版社に依頼されて次にはポーの作品集に挿絵を描いた。アンデルセンの次がポーというのがおもしろい。

「文学の世界に深入りして、子供の時に読んだアンデルセンのお伽噺に興味を失ったものは文学について語る資格がない」と書いたのは吉田健一だった(『酒・肴・酒』)。子どものころ、とくに注意してアンデルセンを読んだわけではない。愛読したわけでもない。そんな読者であってもこうして再読すればノスタルジーではなく新鮮な感動があることに喜びを覚えた。本書に収録されている作品すべてが読んで愉快な気分になれるものばかりではない。このたび本書を読んだのは、脳梗塞で倒れていまはリハビリのため入院している母親に何か本を貸せといわれて思い当たったからだが、こうして読んでみるとあまりふさわしい選択であるとも思えなくなったので(挿絵の影響もあるかもしれないが)見舞いには『たのしい川べ』を持って行った。

4403270034アンデルセン童話集
ハンス・アンデルセン ハリー・クラーク 荒俣 宏
新書館 2005-08-10

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4334740278酒肴酒 (光文社文庫)
吉田 健一
光文社 2006-02-09

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子供の頃 アンデルセンを アニメで 見ていた世代です。小学校 低学年頃までかなぁ?最近の子供たちは こういうアニメ 見るのかナァ
アンデルセンの童話にも 恐ろしいものが あったような記憶です。死の予感とエロスの匂い〜人生教訓みたいな話もあったかなぁ?大人が 社会風刺をしながら 童話にしたものもあるのかなぁ?マッチ売りの処女 あっと まちがった
少女でしたね。いろんな逸話が あるみたいですね。AKBのミニスカート〜の歌が 頭の中を 流れました。なんのこっちゃ? 大変失礼いたしました。
読書同好会(名前検討中
村石太ネオ&ようこ
2011/12/10 12:26

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