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zoom RSS 『ニーベルンゲンの歌』

<<   作成日時 : 2012/02/26 00:00   >>

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血の饗宴。

竜を退治したときその血を全身に浴びたため不死身の身体を手に入れたニーダーラントの王子ジークフリートは、ブルグント国の美しい姫クリームヒルトを妻に迎える。同じころ、クリームヒルトの兄にしてブルグント国王のグンターは女傑ブリュンヒルトを妻とする。あるときクリームヒルトとブリュンヒルトはそれぞれの夫をめぐって口論となり、ブルグント国の勇士ハーゲンはこれを機にジークフリートを暗殺する。クリームヒルトは夫の死を激しく嘆き復讐を決意する。ジークフリートの死から12年が経過し、寡婦のクリームヒルトはフン国のエッツェル王と再婚する。再び権力を手中にしたクリームヒルトは恨みを晴らすためジークフリート暗殺に関わった生国の者たちを――肉親であろうと容赦なく――フン国に招いて皆殺しにしようと企む。「フンの地に行けば全員死ぬ」――ハーゲンは妖精の予言を受けてなお宿命に抗うかのように妃の招きに応じる。ジークフリートの死から24年。フン国で数多の比類ない勇者たちが入り乱れて壮絶な戦いが繰り広げられる。

ドイツ古典文学の傑作といわれる本作は13世紀初頭のオーストリア周辺で一人の詩人によって書かれたと推定されている。叙事詩の素材である「ニーベルンゲン伝説」は5、6世紀ころのゲルマン民族移動時代に生まれた英雄歌謡であり、詩人は伝わる二つの伝説「ブリュンヒルト伝説」と「ブルグント伝説」をそれぞれ前編後編として緊密な構成をもった叙事詩にまとめた。作者であるニーベルゲンの詩人については推測はされるものの詳細はわかっておらず作者不明であるがゆえに本作は民族的な所有となっていると訳者は解説で述べている。死を予告されながら宿命に立ち向かい死んでいくブルグント国の勇士たちに古代ゲルマンの英雄精神を見る。「ニーベルンゲン」とは「霧の人々」の意であり、そのとおりに物語の最後では勝者はなく人々は霧のようにはかなく消えていく。

訳者がたびたび指摘するように本作は緊密な構成をもった叙事詩だ。「ジークフリートの暗殺」を扱う前編と「クリームヒルトの復讐」を扱う後編とにわかれていて、物語の進行がそれぞれ響き合うようなコントラストをなしている。詩人が構成に気を払って執筆した証左だろう。ゲーテは本作について「前編はより華麗、後編はより強烈」と評したそうでこの言葉はこの叙事詩の特徴を端的に示している。詩人は前編に中世騎士物語の要素を、後編に古代ゲルマン英雄精神の要素を取り入れた。管理人の感想としては表現や展開が冗長に感じられる箇所がいくつかある前編は退屈だった。しかし後編の24歌章を過ぎたあたり――それはブルグント国の勇士たちが、死が待つと知りながらクリームヒルトの招きに応じてフン国へ出発する場面だ――から断然おもしろくなってきた。かつてジークフリートを暗殺したためにクリームヒルトの憎悪の的であるハーゲンはドナウ河を渡るときに水の妖精から「フン国に行けば死ぬ」と予言を受ける。しかし彼は引き返さずクリームヒルトのもとへと向かう。前編では単なる悪漢のようにしか見えなかったハーゲンが後編では死の宿命にためらわず向かっていき、襲いくる敵兵を次々になぎ倒す勇者の顔を見せる。また前編では大人しいだけの女であるようなクリームヒルトが後編では復讐に憑かれた「鬼女」と化していくさまは恐ろしい。前編後編を通じてこの二人の主人公の変貌を見るのは興味深い。しかしもっとも読者の印象に残るキャラクターはあるいは楽人フォルカーかもしれない。優れた戦士にして音楽の名手であるフォルカーは作者の投影だとする説もあるという。

ブルグント国の勇士たちの超人的な奮戦もむなしく彼らは全滅する。しかしクリームヒルトもまた死ぬ。歓びは最後には悲しみをもたらす、詩人は本作の終盤でそう述べるだろう。争った人々はみな霧のようにはかなく消えてしまい、歌だけが残される。

完本である『ニーベルンゲンの歌』の写本は3種類あるが本書はこれまでの邦訳とは異なる写本を用いている。本書の原書である「写本C」は、原典に近いとされる「写本B」に補足説明や矛盾点の解消を施して読みやすくしたバージョンとのこと。長年「ニーベルンゲン伝説」を研究してきた訳者による翻訳は驚くほど読みやすい。訳注が脚注になっているのは嬉しい。『ニーベルンゲンの歌』および「ニーベルンゲン伝説」についての丁寧な解説もついており叙事詩の周辺が理解しやすくなっている。管理人は「より強烈」な後編にこそ魅力を感じた。


448042816Xニーベルンゲンの歌 前編 (ちくま文庫)
石川 栄作
筑摩書房 2011-04-08

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