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zoom RSS 『トリスタン・イズー物語』 ベディエ編

<<   作成日時 : 2012/03/04 00:00   >>

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狂える恋人たち。

ローヌア国の王妃は夫を戦争で亡くし、彼とのあいだにもうけた子を己の命と引き換えに産んで、死の間際にわが子をトリスタン(悲しみの子)と名づけた。トリスタンは容姿美しく、またすぐれた楽人、騎士に成長する。やがて彼は伯父であるコーンウォールのマルク王を訪れて彼に仕える。亡き妹の忘れ形見であるこの若者をマルク王は愛で、家臣たちは彼に嫉妬する。あるときトリスタンは王の結婚相手として黄金の髪の美女を探す旅に出ることになり、アイルランドへ渡って彼の地の姫、「黄金の髪のイズー」と出会う。トリスタンはイズーを得て帰国の船に乗るが、その途中で喉を潤すため彼女と一緒に素焼の壺から葡萄酒を飲む。しかしそれは葡萄酒ではなかった。それはイズーの母親が調合した愛の秘薬であり、夫婦が生あるかぎり愛し合うよう婚礼の夜にマルク王とイズーが飲むべきであったのを偶然がトリスタンのもとに運んだのだった。秘薬の効果があらわれて二人は激しく愛し合う。コーンウォールに帰国してマルク王とイズーは結婚式を挙げるもののもはや新妻の心は夫にはない。トリスタンとイズーは人目を忍んで逢瀬を重ねるがとうとう発覚してしまい彼だけが追放される。数年ののちトリスタンはブルターニュで「白い手のイズー」と呼ばれる姫と結婚するが未だ想いは「黄金の髪のイズー」にある。別れたイズーのほうもまた恋人を想い続けていた。そして「白い手のイズー」は夫が自分と同じ名をした別の女を愛しているのを知り、死の床にある彼に嫉妬心からとどめをさし、その死を知ったイズーは愛する男の亡骸をかき抱きながら悲嘆のあまり絶命する。

トリスタンとイズーの悲恋物語はケルトの説話が起源であるとされる。これが12世紀のフランスでまとめられ多くの人たちを虜にした。トリスタンの物語はいくつかの断片が残っており、それらを参照しながら一連の物語としてジョゼフ・ベディエがまとめたのが本書だ(原書の刊行は1890年)。巻末の解説ではトリスタン伝説がケルトの説話起源とされる理由、また物語の鍵となる愛の秘薬について述べられている。12世紀初頭のトルバドゥールたちは貴女崇拝といって擬似宗教的に愛を讃える詩をうたったが彼ら自身が報われることはなかった。貴女からせいぜい「ぬかずく詩人の額にくちづけを受けるのが最高の栄誉」だった。やがて彼らのもとにトリスタン伝説が伝わると流布本の作者とされる詩人は強く感動し、愛の契機をケルトの伝説にみられる呪術的なものから神秘性をいささか弱めて秘薬にし、さらにそれを男女が偶然飲んでしまうという設定にして二人の愛を宗教的なものに変更する(神は偶然を支配するだろう)。愛する恋人同士は孤独であるはずなのに物語中では彼らは民衆たちから同情を寄せられていて、はからずもそこには偶然に支配された男女への憐憫が描かれているようにも管理人には思える。

偶然によって道義に背いた愛の虜となった男女が最後には死によって結ばれる、現在では手垢にまみれて通俗的すぎるかもしれない物語の原型がトリスタンとイズーの物語だろう。しかしいま読めば退屈なだけの骨董品かというと決してそんなことはなく、トリスタンの冒険はファンタジーものとして楽しく読めるし、イズーの猜疑心や「白い手のイズー」の嫉妬心はいまも昔も人の心理は同じだと教えてくれる(2000年まえに書かれたオウィディウスの『恋愛指南』は現代でも通用するだろう恋愛のハウツー本になっている)。嫉妬心から夫とその愛人を死に追いやった「白い手のイズー」がそののちどうなったか、本書では述べられていない。自分の夫の亡骸にすがりつき、冷たくなった唇に唇を重ねて、抱きしめながら死んでいく、自分と同じの名前の女を見て彼女は何を思っただろう。本書の最後では、死してなお結ばれた二人のその後の顛末が自然信仰のようなかたちで述べられている。



4003250311トリスタン・イズー物語 (岩波文庫)
ベディエ
岩波書店 1985-04-16

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エドモンド・レイトンによる優美な「トリスタンとイゾルデ」があった。
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