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zoom RSS 『孤独な散歩者の夢想』 ルソー

<<   作成日時 : 2012/03/06 00:00   >>

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自省録。

ルソーは1712年、ジュネーブに生まれた。15歳で家出をして放浪生活を送ったのちフランスへ。1762年に出版した『エミール』がパリ大学神学部に訴えられ、逮捕を逃れてスイスに亡命、のち1766年にフランスへ戻る。本作はフランスに戻って『告白』を著したルソーがその続篇のようなかたちで執筆した晩年のエッセイだ。感じやすい性質のために親しくしていたディドロヴォルテールやヒュームと仲違いしてしまい、晩年の彼は孤独だった。本作の冒頭は「要するに、僕は地上でただ一人きりになってしまった」。しかし人間関係にわずらわしさを覚えることが多かった彼は孤独になったのを自省の機会ととらえる。「散歩」と題されているように各章は時系列を無視して気の向くままに書かれる。各章に共通するのはひたすら自己に忠実であろう、自由に生きようと望む人間が直面せねばならなかった孤独の主題だ。ルソーが死の前年に書きはじめた本作は死によって未完に終わっている。

僕にとって外的なものは、今後はいっさいよそごとである。もはや、僕にはこの世に、隣人もなければ、仲間もなく、兄弟もいない。僕はこの地球の上にいても、知らない遊星の上にでもいるようなものだ。今まで住んでいた星から、この星へ落ちてきたものらしい。たまに僕が自分の周囲に何物かを認めたとすれば、それは、僕の心にとって、苦しい、せつない対象物にほかならぬのだ。


「対象物」であるのは彼自身でもあるだろう。彼は自分自身を分析し、偽りなく自己を暴こうと試みる。観察するルソーがいて観察されるルソーがいる。自己分裂の感覚、あるいは自分のうちにいる他者の発見。それを証するための手段としての書くという行為。ゲーテは「ヴォルテールとともに一つの世界が終わり、ルソーとともに一つの世界がはじまる」と述べた。近代以降の作家たちが直面する自己の二重性(「僕くらい僕に似ていないものはない」――『告白』)と書くことの憂鬱(「なぜいつも言葉を噴出していなくてはならないのか」――ヴァージニア・ウルフ)はすでにルソーのなかに発見できる。パリを追われたのちやってきたスイスのサン・ピエール島で、文学を捨てて植物採集に没頭していた二ヶ月間が自分の人生でもっとも幸福な時期だったと彼は述べている。

僕の最も大きな愉快の一つは、とりわけ、書物などは、相変わらず箱に入れっぱなしで、物を書く道具も手もとにないということだった。(略)あの憂鬱な反故や、あのボロ本のかわりに、僕は自分の部屋を花や草でいっぱいにした。


植物採集のほかに島を見物し、農婦と一緒に作業をし、湖にボートを出して波に揺られながらとりとめのない物思いに耽る。サン・ピエール島での生活を回想する「第五の散歩」の章は本作中もっとも明るい。65歳のルソーにとって過ぎ去った夢のような日々がせつなくいとしさを込めて書かれている。

本作の基調は暗い。18世紀以降の文学と哲学は彼の影響なくしては考えられないといわれるほどの人物の晩年がかくも深い孤独感、周囲との断絶感のうちにあったというのは寂しい。ここでのルソーはもはや自分を追放した人間たちを憎むことはない。ただ忘れようとしている。そうして「対象物」として眺め、彼らとの関係を通じて人と人との関係に空虚さを感じ、彼ら無理解な人間とともにあるよりも孤独であるほうがよいといい、植物や子どもへの偏愛を述べる。そして生まれた子たちを孤児院に送った理由についても率直に書いている。

もう残された時間はわずかしかない。それでもルソーは生きることに絶望していない。自分の運命を諦念でもって受け入れ、そのなかで自身にとっての最善をなそうとする努力を決して放棄していない。
一人の人間が知らねばならぬことがらは、そして、それを知ることがその人の幸福に必要であるようなことがらは、おそらく、数多くはないだろう。


賢明であること、謙虚であること、自惚れを少なくすることを学ぶに、よし敵から学ぶにしたところで、遅きに過ぎるということはあるまい。


「哲学することは死にかたを学ぶこと」とモンテーニュはいった。ルソーもまた同じことを本作で述べている。
われわれは生まれると同時に競馬場に入り、そして、死と同時にそれから出る。人生の末路に来て、いまさら、おのれの馬を御する術に上達したところで何になろう? かくなっては、いかにして人生を終えるかを考えることよりほかはないのだ。老人の勉強というのは、もしまだ老人になすべき勉強があるとすれば、それは死ぬことを学ぶことだけである。


本作には諦念が濃く漂っている。ショーペンハウアーの著書と並んで孤独に生きる人間の慰めになるだろう。ドストエフスキーの『地下室の手記』も予告している。


4102007016孤独な散歩者の夢想 (新潮文庫)
ルソー Jean‐Jacques Rousseau
新潮社 2006-07

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