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zoom RSS 『異邦人』 カミュ

<<   作成日時 : 2012/03/08 00:00   >>

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調書。

アルジェの海運会社に勤めるムルソーのもとに養老院から母親の死を知らせる電報が届く。彼は80キロ離れた土地にある養老院を訪れて、母親を埋葬する。アルジェに帰ってきて海水浴に行くと元同僚のマリイと再会したので彼女とコメディ映画を見に行き、夜をともにする。しばらくして同じアパートの住人が女をめぐるトラブルを起こし、それに巻き込まれる。その男やマリイと海水浴に行くと、トラブルの火種となった女の兄と遭遇、ぎらぎらと太陽が照りつける浜辺で喧嘩になり、ムルソーは持っていた拳銃で男を殺してしまう。彼は収監され、裁判がはじまる。なぜ殺したのかと裁判長に問われ、太陽のせいだと答えて傍聴人から失笑を買う。被告を置き去りにするように裁判は進展し、結果死刑の判決が下される。ムルソーは独房のなかで自身と自身の死について省察する。

読み返すのが何度めかはわからないけれどたぶん10年ぶりくらいに読んだ。読み終えてこれはカミュなりの『審判』なのではないかと思った。傍観者のように生き生活を享楽していたムルソーが殺人によって罪を問われるが、本人は何が罪であるか理解せぬまま死刑判決を下される。殺人までを述べる第一部でムルソーの肖像が描かれるが、彼は――70年まえに創造された人物であるのに――現代の日本で暮らすわれわれとよく似ている。女を抱ける週末を楽しみに退屈な会社勤めをする。異動してもっとバリバリ仕事をしないか、と上司にいわれても今の暮らしに満足しているからどっちでもいいと答える。一人で過ごす休日は昼までベッドでだらだらし、外食に行くのも買物に行くのも面倒だからとありあわせの食事を作り、趣味の新聞記事の切り抜きをして、バルコニーで道行く人を眺めながらぼんやり過ごす。不思議に現代的な人物だ。管理人も彼と大差ない。じゃがいもを煮る料理を作るので会社からまっすぐ帰った、などと述べるのだから。

アルジェの気候もあるのだろうがどこか気だるいような生を生きている彼が日射に朦朧としながら引いた引金によって犯罪者として世間から追放されるという筋は、繰り返しになるが管理人にはカフカの変奏に見える。ムルソーは傍観者のように生きているが虚無的な人間ではない、むしろ享楽的な人間だ。野心をもたないと上司に指摘されたとき彼は独白する――若いころから今のようだったのではない、以前は野心があった、けれど(何らかの事情で)学業を中途で放棄せねばならない羽目になり以後は野心――つまりは将来の期待ということだろうが――をもつのをやめてしまったのだ、と。人生は何が起きるかわかったものではない、将来の期待などもたず今を楽しもうとするからムルソーの行動は享楽的になる。本作は1942年に発表された。ムルソーの人生観は世界大戦当時の空気と同調するものだったのではないか。彼の、どうでもいい、そうすることに意味はない、といった口癖は何にも期待せず今だけを生きているゆえに口にされているように思える。今しかないのだから母親の死を悲しむ必要もない、彼女はいなくなり彼はまだいる、それだけのこと。「結局、何も変わったことはなかったのだ」。

孤独な生を生きているムルソーは裁判で置いてきぼりにされたあげく社会から抹殺される。死刑判決は確実な将来となる。このときから彼は変化する。独房の窓から外を見て自由に憧れ、特赦を請願する。それが通るかどうかはわからない、そして内省するうちに自分は孤独ではないのだと突如として悟る。今だけを生きている者にはつながりの実感がない、先を期待しないのだから。だから彼は孤独であるだろう。しかしムルソーが人々の憎悪によって死刑という確実な将来を手に入ると事態は変わる。人は憎悪によっても他者とつながることが可能なのだと彼は理解する。憎む者は憎んでいる者に憎悪でもって結びつけられている、愛が人を結びつけるのと同じように。ようやく確実な将来を手に入れて孤独は解消された。だから彼は小説の最後で自分は幸福だと確信するのだ。『ペスト』の主題であるつながりの問題はすでに本作で――逆説的なかたちで――予告されていた。

などと述べてみてがしょうじきこの小説はよくわからない。以前はわかったような気がしたものだが読み返したらわからなくなったから読み返さなければよかったかもしれない。ひとついえるのは「不条理」やら実存主義やらはひとまず脇へのけて読み(カミュは自分は実存主義者ではないと述べている)、カミュのユーモアを楽しめばいいのではないだろうか。犬を連れた老人といい、女衒と警察のやりとりといい、被告を無視して進展する裁判といい、かなり笑える。


4102114017異邦人 (新潮文庫)
カミュ Albert Camus
新潮社 1954-09

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