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zoom RSS 『地獄の季節』 ランボオ

<<   作成日時 : 2012/05/08 00:00   >>

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それならばもう一度。

十代で第一級の詩を書いたランボーは、それで見切りをつけたかのように文学と訣別し、さまざまな職に就き各地を転々としたのち病のため三十代の若さで亡くなる。ランボーが詩作したのはわずか数年だったが、その短期間の活動で、フランスを代表する詩人の一人としての名を今日まで残している。生涯も詩も、一言で述べるなら「速さ」が適当だろう。文学の世界を一瞬恐るべき光で照らし過ぎ去った彗星。天分に恵まれながら無頓着で反逆的。管理人の抱く詩人のイメージにこんなにも合う人はほかにいない。むろんランボーはフランス語でなくてはわからないだろう。けれども日本には小林秀雄の翻訳がある。美貌の不良少年が、溢れるばかりの才能で言葉を力任せに叩きつけるような「地獄の季節」に漲る確信の調子は読者の気分を高揚させる。火酒のように酩酊させる。「俺は夏の夜明けを抱いた」「時よ、来い/ああ、陶酔の時よ、来い」「ああ、純潔よ、純潔よ」この苛烈さはランボーなのか小林なのか。おそらくは後者だろう。ほかにも多くある翻訳されたランボーを読んでも、小林訳を読むときほど興奮できない。輝くような一人称の「俺」に目が眩む。

「地獄の季節」と「飾画」の二篇が収録されている。管理人は短い詩句が次々連なる「地獄の季節」のほうを好む。地獄とはわれわれの生であるか。親交のあったヴェルレーヌが「非凡な心理的自伝」と評したこの作品で、詩人はたえず遠くへ憧れている。「生活」という語が多くでてくるが(この題の詩がある)、それを清算してどこでもいいからここではない遠くへ出発(この題の詩もある)したいと切望している。

ゴールの西岸、アルモリックのほとり。夜が来たら、街々に灯が点るのかしら。役は終った、俺はヨーロッパを去る。海風は俺の肺臓を焼くだろう。未開地の天候は俺の肉を鞣すだろう。泳いでは草を藉き、狩しては煙草をふかし、滾り立つ金属のような火酒をのむ事だ。――焚火を囲んで、あの親しい祖先の人々がしたように。

「悪胤」


また見つかった、
何が、永遠が、
海と溶け合う太陽が。

独り居の夜も
燃える日も
心に掛けぬお前の祈念を、
永遠の俺の心よ、かたく守れ。

人間どもの同意から
月並みな世の楽しみから
お前は、そんなら手を切って、
飛んで行くんだ……。


見飽きた。夢は、どんな風にでも在る。
持ち飽きた。明けても暮れても、いつみても、街々の喧噪だ。
知り飽きた。差押えをくらった命。――ああ、『たわ言』と『まぼろし』の群れ。
出発だ、新しい情と響とへ。


「出発」


すべてを白紙に還元してもう一度。管理人は本書に放棄と新生の意志を見てそれが痛快だ。自身の生活は地獄の責苦だと嘆き、「手ばかり幅を利かせる世紀」に唾する詩人。若さのゆえか気質なのか、希望の光に満ちているのが好ましい。何が書いてあるのかと問う必要はさほどなくて、ただ目に飛び込んでくる詩句に身を任せればいいのだろう。この語感、このリズム。詩は幾度でも読まれ、幾度でも口にされることを望んでいる。

ランボーというと青春の代名詞のように扱われることがある(太宰治がそうであるようにして)。けれども久しぶりに読んでみると、新規蒔き直しを謳うようなランボーの詩はあるいはある程度の年齢を経てこそ胸を打つのかもしれないと思えた(「如何にも、新しい時というものは、何はともあれ、厳しいものだ」)。生きている限りは何度でもやり直せる、何度でもやり直せ、という激励のように感じるのは管理人のバイアスなのか。十代で読んだときにはよくわからない、ただ言葉がずば抜けて格好いいと感じた程度だったのが(今もそう感じる部分が大半なのだが)、このたび読んでみると生きる元気のようなものを与えられた。もっと生きろ、ぐずぐずするなと急かされたようでもある。すぐれた文学はすべからく――内容とは別に――人を生へ向かわせるのだろう。

まだまだ前夜だ。流れ入る生気とまことの温情とは、すべて受けよう。暁が来たら俺たちは、燃え上がる忍辱の鎧を着て、光りかがやく街々に入ろう。

「別れ」


4003255216地獄の季節 (岩波文庫)
ランボオ J.N.A. Rimbaud
岩波書店 1970-09

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