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zoom RSS 『デ・トゥーシュの騎士』 バルベー・ドールヴィイ

<<   作成日時 : 2013/02/21 00:00   >>

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ふくろう党血風録。

フランス革命の時代、共和派と王党派の戦いが激化するなか、イギリスに逃れたブルボン家と、フランスに残った王党派との連絡士官を務めたジャック・デ・トゥーシュという若い騎士が、共和派に捕らえられる。王党派のゲリラ集団「ふくろう党」はこの若者の救出に向かい、奪回に成功する。本作は細部に脚色を交えながら、1799年に実際にあったこの事件を物語る。

小説は上記の事件から20年が経過した、ノルマンディ西端の地方都市ヴァローニュからはじまる。夜の広場で「恐るべきもの」と遭遇した神父が、あれは死んだデ・トゥーシュの幽霊だと語ったことから、神父の妹のペルシー嬢が、自らも参加したデ・トゥーシュ奪回の遠征を回想し、語りはじめる。「美しきヘレネー」とあだ名される美貌を誇るデ・トゥーシュ、その友人の「陰鬱な美青年」ジャック氏、そして彼の妻であり、夫を遠征で亡くしたあとは「処女寡婦」として修道院に籠もることになる絶世の美女エメ・ド・スパンス。彼らの肖像が長々と描かれたあと、デ・トゥーシュが捕まり、ふくろう党が二度の遠征を行って彼を救出した顛末が明らかになる。

小説の舞台となるのは著者の故郷、荒涼たる海岸地方ノルマンディだ。遠征に参加する13人のふくろう党の戦士たちはみな豪胆であり、彼らが、立ちはだかる共和派と激しく衝突する最初の遠征の戦闘場面は本作の白眉だろう。10人の戦士たちが傷を負いながら武器を振るって、次々に襲い来る群衆をなぎ倒していく。戦場となった広場は死屍累々の有様、戦士たちが「膝まで血に浸かる」凄まじい殺戮。困難の最中でも軽口を叩く益荒男たちの活躍に胸が踊る。結局この遠征は失敗して二度目が組織されるのだが、こちらはふくろう党の名にふさわしく、夜陰に潜むような作戦が実行され、二度の遠征は動と静、対照的に描かれる。二度目の遠征には前回のような派手さが欠けるが、救出されたデ・トゥーシュが己の恥をそそぐために手の込んだ殺人を行って、この「歴史的事件」を締めくくるだろう。

この小説では性の問題がユニークに扱われる。デ・トゥーシュ奪回の物語は、自身も二度目の遠征に参加した女武者ペルシー嬢の口から語られる。彼女の話を聞く人々のうち、女たちはかつて王党派とともに反革命の戦いに参加したが、男たちは国外に逃げていた。女が戦い男が逃げるという性の逆転。さらに、女性的美貌の持ち主デ・トゥーシュと、彼とは逆に、髭を生やした醜女ペルシー嬢という、性を超えた二人の配置。そして「処女寡婦」エメ。絶世の美女でありながら夫ジャック氏の死によって婚礼衣装を屍衣と化し、聴覚も失って閉ざされた世界に生きることを余儀なくされた悲劇の女。男たちの性を刺激する存在でありながら、自らの愛を喪ったのを機に性を放棄し、年月の経過によって美貌を朽ちさせつつある女。彼女の造形について著者は、「私の思念の純粋な力をことごとく注ぎこんだ」と語っており、結果として、エメはこの小説でもっとも強い存在感を備えることになった。
じっさい、これ以上熱く深い愛情をかき立てる女性はいなかった……。富も人気も必要ない! 残ったのは、皮肉で残酷な天賦の優美さのみ! それは幸福を築くには何の役にも立たず、彼女の失敗した人生を、ほかの者たちの成功した人生よりも美しいものに変えただけだった!


ドールヴィイは本作で「性の廃棄」という主題に取り組んだと訳者は指摘している。それはどういうことか。人は強烈な性の快楽を望むが、常に満たされるとは限らず、時に欲望に裏切られて幻滅する。ゆえに性を煽る女たちへの憎悪が生まれるが、その憎悪は女たちに欲望を抱くのを止せない自分自身へも向けられる。この事態を嫌悪する心が「性の廃棄」という願望を生む(著者のカトリック信仰も関わっているだろうか)。デ・トゥーシュは美貌によって、ペルシー嬢は醜貌によって、それぞれの性を「乗り越え」、そして究極的な性の超越者、「処女寡婦」エメが、物語に登場する男女の頂点に君臨する。タイトルこそ『デ・トゥーシュの騎士』だが、「性の廃棄」を主題としている本作の真の主人公は彼女といえるだろう。

デ・トゥーシュ奪回の物語が完結したあともまだ小説は続き、最後に、冒頭の、神父が見た幽霊の正体とエメにまつわる謎が解明される。人物描写に頁の多くを割いてスローペースな序盤は、次第に速度を増して冒険譚となり、最後に謎の解答が待っている。この構成と、悠揚迫らぬ語りが気に入って、立て続けに二度読んで堪能した。管理人には、代表作とされる『悪魔のような女たち』よりも本作のほうが好ましい(訳者によると、ドールヴィイの本領は長篇にあるという)。巻末の解説も懇切で、本書を楽しむ助けになる。


448042931Xデ・トゥーシュの騎士 (ちくま文庫)
ジュール・バルベー ドールヴィイ Jules Barbey D’aurevilly
筑摩書房 2012-06-06

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