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zoom RSS 『ソラリス』 スタニスワフ・レム

<<   作成日時 : 2013/04/05 00:00   >>

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未知との遭遇。

惑星ソラリス。赤と青の二つの太陽の周りを回り、ほぼ全面が海に覆われた、地球から遥か彼方の星。ここで生きている生命体はたった一種類、ソラリスの海だけだった。惑星全体を覆うこの海は巨大な原形質の脳であり、人間は地球外生命体とのコンタクトのためにこの星に調査隊を派遣した。しかし結果は芳しくなかった。ソラリスの海は人間の想像を超えた意図をもっているようで、何を望むのか判然としない。研究者たちはあれこれの理論を生み出してソラリスを究明しようとするも、もはや膨大な量になった「ソラリス学」のどれもが、結局は空疎な想像に過ぎないような徒労の状況を呈している。

小説は、心理学者のケルヴィンがソラリスに派遣されるところからはじまる。16ヶ月の宇宙旅行の末に到着したステーションでは出迎えがない。彼は妙に思いながらステーション内に足を踏み入れる。なかでは家具や実験器具が散乱しており、しかも職員の一人は自殺したという。何がここで起きたのか。ようやく見つかった一人と話しても要領を得ない。彼はただ、用心しろというばかり。疲れたケルヴィンは眠りに就く。再び目を開けたとき、彼のまえには死んだはずの恋人、ハリーが立っていた。十年まえに死んだときと全く同じ外見のままで。

ソラリスは、ある個人の抑圧された思い出や記憶に基づいてイメージを実体化させるという方法で、地球人と接触してきた。出現するのは幻影ではない。触れることも、コミュニケーションも可能な存在として死者はケルヴィンたちのまえに現れる。ソラリスの目的は何なのか。いかなる意図で、人の記憶を探り、そのなかにもっとも強く残っている人の姿を再現(創造)するのか。海は沈黙したまま、人間の問いを無視し続ける。

著者レムがこの小説で表現したかったのは、「存在している何者かとの人間の出会いのヴィジョンを作り出すこと」だったという。われわれは地球の外にいるかもしれない他者との出会いを求めて宇宙を開拓してきた。しかし、無意識のうちにかもしれないが、その開拓(探求)は、他者を理解できるという前提に基づいていた。けれども、宇宙は「銀河系の規模に拡大された地球」ではない。人間と宇宙人とのあいだに相互理解が成り立つというのは根拠のない楽天主義か、あるいは傲慢でしかない。人間の理解を超えた、もはやまったく理解できない他者と遭遇したとき――それは、もしかすると理解できる生命体と遭遇するより高い可能性かもしれない――われわれは戸惑うばかりであり、そのときはじめて、人間は自己の限界を悟り、自分たちとて宇宙の片隅に生存しているだけのちっぽけな存在のひとつであることを自覚するだろう。「認識の限界」を描いて、レムは本作で「人間中心主義」を幾度も批判している。

ソラリスは単にゼリーに覆われた普通の星ではない。それは人間とは違うやり方ではあれ、自分なりに活動し、自分なりに生きているのだ。ただし、人間の言語に翻訳でき、翻訳を通じて説明できるようなものは、何一つ組み立ても創造もしないのである。


コミュニケーションの不可能性。人間の傲慢への批判。本作の軸となるのはその部分なのだろうが、管理人が本作に感動するのは――同じふうに感じる読者は少なくないと思うが――いわば「偽物」のハリーと、彼女の死に罪悪感を抱き続けてきたケルヴィンとのラブ・ロマンスの部分にある。そうするつもりはなかったのに、軽率さから愛する女を失ってしまった男が、十年の時を経て、いま、地球から遥か離れた惑星で彼女と再会する。はじめは気味が悪かった。怪物としか思えなかった。けれどもソラリスのハリーにも自我はあり、彼女は彼を愛してくれる。ケルヴィンの心も次第に傾いていく。彼女を、かつて亡くしたハリーだと思っていたのが、だんだんと、「ソラリスのハリー」に惹かれていく。しかし、ソラリスの海から生まれたハリーは、ソラリスを離れては生きていけない(と推測される)。彼女はいわば、あらかじめ失われている恋人だった。彼女とケルヴィンとの別れの場面は切ない。彼女は別れの手紙に愛する男への思いを綴りながらも、自らの名を記すことは遂にできなかった。

レムはあくまで本作を、「人間の認識の限界のモデル」だと述べているが、訳者は、恋愛小説の要素が孕む「暖かみ」が、本作が多くの読者を獲得した原因ではないかと分析している。本作と同じく未知とのコンタクトを主題にした『エデン』や『砂漠の惑星』といったレムのほかの作品も読んでいるが、情緒的に小説を読む管理人には面白くなかった。訳者によると、「透徹した知性と辛辣な諷刺と哄笑の精神」を備えたレムが本作で見せる「暖かみ」は、彼には珍しいものだという。

今回は「スタニスワフ・レム・コレクション」での再読。早川文庫版では削除されていた部分も訳出されているが、当該部分はソラリスに関する学術的なもので、本作を――著者の意向に逆らって――「宇宙空間での痛ましくも甘いラヴ・ロマンス」として読む読者としては、とりたてて新発見はなかった。そういうふうに読むのなら、早川文庫版で十分という気もする。


4336045011ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)
スタニスワフ レム Stanislaw Lem
国書刊行会 2004-09

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4150102376ソラリスの陽のもとに (ハヤカワ文庫 SF 237)
スタニスワフ・レム 飯田 規和
早川書房 1977-04

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