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zoom RSS 『ペロー童話集』 シャルル・ペロー

<<   作成日時 : 2013/05/09 00:00   >>

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文学のふるさと。

17世紀末のフランス。文才に恵まれた宮廷人シャルル・ペローは晩年に民話、説話を収集し、ときに手を加えて一冊の本にまとめる。 今日のわれわれがよく知る「眠りの森の美女」「赤頭巾ちゃん」「長靴をはいた猫」「サンドリヨン(シンデレラ)」などがそのなかには含まれている。100年ほど彼に遅れてドイツではグリム兄弟が口承説話を収集することになるのだが、彼らは自分たちの先駆者であるペローの「昔話」を称賛し、類話の多くを自分たちの童話集に収録している。

ペローの童話は物語と教訓とから成っている。「赤頭巾ちゃん」を例に挙げる。
赤頭巾ちゃんは具合を悪くしたおばあちゃんの見舞いに出かける。途中で出会ったオオカミは、どこに行くのかと赤頭巾ちゃんに聞く。赤頭巾ちゃんが正直に答えると、この少女を食いたくてたまらないオオカミは先回りしておばあちゃんを食い殺し、おばあちゃんになりすましてベッドに潜り込む。しばらくすると赤頭巾ちゃんがやって来る。「一緒に寝てちょうだい」とオオカミはいう。ベッドのなかにいるのはおばあちゃんだと疑わない赤頭巾ちゃんはその言葉に従う。
「おばあちゃんは何て大きな手をしているの?」
「おまえをできるだけ上手に抱っこするためさ」
「おばあちゃん、なんて大きなおめめをしているの?」
「おまえをよく見るためさ」
「おばあちゃん、何て大きな歯をしているの?」
「おまえを食べるためにさ」
こう言うとオオカミは赤頭巾ちゃんに飛びかかる。
淫靡さが漂うようなこの物語の教訓をペローは何とするか。可愛くて気立てのよい娘が誰のことも容易に信じれば待っているのは破滅だけだということ。人好きのする、優しそうに見えるオオカミこそが、もっとも恐ろしいオオカミかもしれないということ。実際に当時の農村部ではこれによく似た暴力的・性的な事件が頻発していたのではないのか、と邪推する(森と強姦の結びつきはサド文学にも頻出する)。あまりに酷い内容になるから、どぎつさを薄めるために少女と動物のやりとりに擬したのではないかと。余談ながら、主人公の少女が赤い頭巾をかぶっているというのは口承説話にないペローのオリジナルであるという(「サンドリヨン」のガラスの靴も同様――鈴木晶『グリム童話 メルヘンの深層』)。

すでによく知っているとはいえ、素朴に述べられる物語は単純に読んでいて楽しく、加えられる教訓は再発見の喜びを与えてくれる。作者ペローはそういう意図の物語として読んだのか、という新鮮さが、見知ったはずの物語を懐かしくも新しく蘇らせる。たとえば、継母たちにいじめられる娘が妖精だか魔法使いだかの助けを得てかぼちゃの馬車に乗り、ガラスの靴を履いてお城の舞踏会に参加して王子の心を射止め、やがて彼の妃になるというあのサンドリヨン(シンデレラ)の物語は、どんな美貌や気立てのよさ、品のよさがあっても、それらを活かしてくれる魔法の助けがなければ何にもならない、という冷淡にして現実的な教訓が加えられている。

「眠りの森の美女」や「長靴をはいた猫」もよいものだが、「巻き毛のリケ」をとくに愉快に読んだ。これは物語的には破綻しかけているものの、人の心のうつろいやすさや、美とは愛によって発見されるものである、というテーゼがさりげなく表現されていて感興を覚える。また、「おやゆび小僧」にはパニックに乗じて相手の財産をくすねる場面があって、これなどは現代の振り込め詐欺と同様の手法と思えて、人間の本質の変わらなさに、不謹慎ながらも妙に感心した。

ペローの物語集はどちらかといえば童話集というよりは昔話集というようなものだが、これをあえて童話集のタイトルにした理由について訳者は次のように述べている。
だいたい、ペローやグリム兄弟の「昔話」と、たとえばアンデルセンの「童話」とは、本質的にどうちがうのでしょうか? ある人は、グリムたちのは「民族童話」「伝承童話」、アンデルセンのは「創作童話」あるいは「芸術童話」だと言っています。しかしペローやグリム兄弟だって、書き方や表現に独特のくふうをこらしているし、アンデルセンの創作した童話にも、伝承的なテーマや、過去の長い物語伝統のつみ重なりが、色濃く反映しているのです。


愉快に読めれば厳密な区分などどうでもよい、それが大方の読者に共通の気持ではないだろうか。グリム兄弟が「収集」した童話の背景にあるビーダーマイヤー的価値観の堅苦しさと比較すると、ペローの童話が備える単純素朴さ、感傷を排したドライさにはすがすがしさを覚えて心地よい。アンデルセン童話の「悲哀」のトーンとはまた異質な不思議な魅力がある。坂口安吾はペローの「赤頭巾ちゃん」の、読者を突き放すような筋こそ、よるべなきわれわれの「文学のふるさと」だと喝破している。


4001141132ペロー童話集 (岩波少年文庫 (113))
シャルル ペロー マリ林
岩波書店 2003-10-16

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岩波文庫版は解説がためになる。
4003251318完訳 ペロー童話集 (岩波文庫)
シャルル ペロー Charles Perrault
岩波書店 1982-07-16

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