テーマ:海外の小説

『地獄の季節』 ランボオ

それならばもう一度。 十代で第一級の詩を書いたランボーは、それで見切りをつけたかのように文学と訣別し、さまざまな職に就き各地を転々としたのち病のため三十代の若さで亡くなる。ランボーが詩作したのはわずか数年だったが、その短期間の活動で、フランスを代表する詩人の一人としての名を今日まで残している。生涯も詩も、一言で述べるなら「速さ」が…
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『ヘンリ・ライクロフトの私記』 ギッシング

悲しき幻想。 ヘンリ・ライクロフトはロンドンの売れない作家で明日食うものにも困る暮らしを送っていたが、50歳のとき幸運にも独り身の彼が生活していくには十分な遺産を受け取ることができ、これを機会に文筆稼業と訣別して、イングランド南部のデヴォン州に隠棲する。金のためにあくせくする必要から解放され、かねてからの念願だった読書と散歩と思索…
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『三つの物語』 フロベール

フローベール最晩年の作品。 収録されている3作は(執筆時の)現代から中世、そして古代へと時代を遡っていく。述べられるのは運命か。人の性情がそうあるのなら、その鋳型に合わせるように運命は準備される。三篇の主人公たちはそれぞれがあるべき人生を生きるだろう。 冒頭収録の「純な心」がいい。女中フェリシテ(フローベール家に長年…
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『ホーソーン短篇小説集』 坂下昇編訳

深層の魔。 ナサニエル・ホーソーンは1804年に、マサチューセッツ州セーラムに生まれた。17世紀末、多くの犠牲者を出した魔女裁判が行われた土地であり、先代のジョンはこの裁判の判事を務めている。厳格で潔癖なピューリタンによるこの事件は、作家の母方の先祖が犯した近親相姦事件とともに作品に影を落としている。弟と交わる罪を犯した二人の姉は…
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『ジェルミナール』 エミール・ゾラ

貧しき人々。 不況の嵐が吹き荒れる1880年代、フランス北部の炭鉱町モンスーに仕事を求めてエチエンヌ・ランチエ青年がやって来る。空いたポストに入るかたちで彼は雇用され、生まれて初めて地中に深く潜る。採炭は過酷な労働だった。ランプがなければ真っ暗な、湿気でじめじめする狭い空間で、不自由な姿勢のまま長時間肉体を酷使しなくてはい…
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『石さまざま』 アーダルベルト・シュティフター

光と闇の対比。 シュティフターの短篇集の全訳。岩波文庫の『水晶 他三篇』に欠けていた「電気石」と「白雲母」が含まれている。 シュティフターは作家であると同時に画家でもあった(『水晶 他三篇』には彼の風景画が数点収録されている)。本書収録の作品に共通して見られる長い風景描写は画家としての目が活かされた特徴であるのだろう。森や山…
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『モンテ・クリスト伯』 アレクサンドル・デュマ

涙の香り。 若き船員エドモン・ダンテスは危険な航海の最中に船長を亡くすも、無事マルセイユに帰還する。事情を知った船主は新しい船長にダンテスを推すつもりになり、彼にそう打ち明ける。若者は歓喜するが、それ以上にいま脳裏に浮かぶのは父親との、そして愛する恋人メルセデスとの再会だった。若くしての出世、美しい恋人との婚約。まさに幸福の絶頂に…
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『短篇集 恋の罪』 サド

「適法」のサド。 作家サドには「違反」の作品と「適法」の作品の二種類がある。外科的に記述されるエロスと過剰な暴力を悪の哲学――神の否定と欲望の肯定――を背景に物語る前者の作品群に『ジュスチーヌ』、『ソドム百二十日』、『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え』などがあり、これらは匿名で出版された(サドは「違反」の作品の作者であることを否…
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『狂えるオルランド』 アリオスト

狂気の愛。 11世紀後半頃にフランスで生まれた『ロランの歌』(ロランはイタリア語でオルランド)のような武勲詩、その後フランスで流行したアーサー王物語のような騎士道物語は13世紀頃から北イタリアに移入され、民衆向けの「語り物」となって人気を博す。英雄たちの武勲や騎士たちの愛を主題としたこれら物語の流れを汲んで、15世紀末、イタリアの…
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『白馬の騎手』 テオドール・シュトルム

嵐の夜に。 1830年代のフリースラント北部、語り手は嵐の夜に、訪れていた親戚の家を出発する。暴風にあおられながら堤防に沿って馬を走らせていると、黒い影がこちらに向かってくるのが見えた。漆黒の闇のなか、分厚い黒雲の隙間から月光が射すとその影は白馬に乗った人だった。すれ違い、また追い越してその人は姿を消した。やがて居酒屋の灯りが見え…
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『悪霊』 ドストエフスキー

父と子たち。 自堕落なもと大学教授のステパン・ヴェルホヴェンスキーは、ある地方都市で、裕福な未亡人ワルワーラ・スタヴローギナの屋敷に住んでいる。かつて一度だけ恋愛関係にまで発展しかけたこともあったのだが、すれ違いのため実らず、二人は20年間「友人」であり続けた。この町に、ワルワーラの一人息子であるニコライ・スタヴローギンが帰還する…
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『あら皮』 バルザック

死の舞踏。 19世紀前半のパリ。ラファエル青年は最後の金を賭博ですってしまい、自殺を決意して歩くうち一軒の骨董屋に入る。店の主人は青年に同情し、奥の部屋へと案内して、壁に掛かったあら皮を見せる。主人が言うには、このあら皮は魔法の品で、持ち主の余命と引き換えにあらゆる望みを叶えてくれる。望みを叶えるたびに皮は縮むが、それは持ち主の余…
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『大尉の娘』 プーシキン

父と子。 1773年のロシア、ウラル地方でピョートル三世を僭称する一人の男がコサックを率いて帝国に叛旗を翻した。彼の名はプガチョーフ。プガチョーフの叛乱軍はたちまちコサック、分離派信徒、異民族らを傘下に集めウラル地方一帯で2年にわたって大暴れした。本作はこの史実を背景とする。 語り手のピョートルは忠実な下僕のサヴェーリイチを…
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『紅い花 他四篇』 ガルシン

「悪」と戦う。 ダリヤ、バラ、ツクバネ、朝顔。精神病院の庭は患者たちの手で植えられた花々で鮮やかに彩られていた。その庭の片隅に三輪のケシが咲いている。患者の一人、入院したての若者は窓に顔を押しつけてその真紅の花を見つめ、不穏を感じる。散歩の時間に庭に出るとそばに近づき観察する。ケシは人命を奪うような毒気を発散して、見ていると眩暈が…
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『弓と竪琴』 オクタビオ・パス

詩論。 メキシコ出身の詩人がポエジーについて考察する。ポエジーは詩にのみあるのではない、と著者は述べる。ポエジーは絵画や音楽や舞踊にもあるのだと。そのポエジーとは「認識、救済、力、放棄」であり、「ポエジーはこの世界を啓示し、さらにもうひとつの世界を創造する」。人間は彼であると同時に他者を身内に抱えている。そのことの発見と啓示による…
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『異邦人』 カミュ

調書。 アルジェの海運会社に勤めるムルソーのもとに養老院から母親の死を知らせる電報が届く。彼は80キロ離れた土地にある養老院を訪れて、母親を埋葬する。アルジェに帰ってきて海水浴に行くと元同僚のマリイと再会したので彼女とコメディ映画を見に行き、夜をともにする。しばらくして同じアパートの住人が女をめぐるトラブルを起こし、それに巻き込ま…
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『ダフニスとクロエー』 ロンゴス

めばえ。 3世紀ころのレスボス島。貧しい山羊飼いがニンフを祀った洞窟に捨てられている男の赤子を見つける。その子のかたわらには高価な装飾品が置いてあった。子どものなかった山羊飼いは赤子を抱いて帰りわが子として育てる。その2年後、同じ場所に今度は女の赤子が捨てられているのを羊飼いが見つける。この子も高価な装飾品と一緒に捨てられ…
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『孤独な散歩者の夢想』 ルソー

自省録。 ルソーは1712年、ジュネーブに生まれた。15歳で家出をして放浪生活を送ったのちフランスへ。1762年に出版した『エミール』がパリ大学神学部に訴えられ、逮捕を逃れてスイスに亡命、のち1766年にフランスへ戻る。本作はフランスに戻って『告白』を著したルソーがその続篇のようなかたちで執筆した晩年のエッセイだ。感じやすい性質の…
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『トリスタン・イズー物語』 ベディエ編

狂える恋人たち。 ローヌア国の王妃は夫を戦争で亡くし、彼とのあいだにもうけた子を己の命と引き換えに産んで、死の間際にわが子をトリスタン(悲しみの子)と名づけた。トリスタンは容姿美しく、またすぐれた楽人、騎士に成長する。やがて彼は伯父であるコーンウォールのマルク王を訪れて彼に仕える。亡き妹の忘れ形見であるこの若者をマルク王は愛で、家…
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『狐物語』

黒いいたずら。 12世紀後半のフランスで成立した悪狐ルナールの物語集。ルナールと狼イザングランの諍いを中心にしながら、当時の社会がユーモラスに描かれる。ルナールは常に悪巧みを実行する機会を窺っており、イザングランをはじめ動物たちを罠にかけては楽しむ。本作は悪漢小説のはしりでもあるのだ。登場する動物たちにはみな名前が与えられており、…
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『マクベス』 シェイクスピア

魔女たちはささやく。 スコットランドの武将マクベスは勝ち戦から帰還する途中で三人の魔女たちに遭遇する。魔女たちは彼を祝い予言する、いずれおまえは王になると。半信半疑のマクベスだったがその言葉は彼に強い印象を残す。予言を手紙に書いて妻に送り領地に戻って彼女に会えば、ちょうど宿泊に来ているスコットランド王を殺して予言を実現させろと唆さ…
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『ある婦人の肖像』 ヘンリー・ジェイムズ

夢の終わり、あるいは現実のはじまり。 両親を亡くしたアメリカ娘のイザベルは伯母にすすめられて彼女や従兄ラルフが暮らすイギリスへと渡る。知的で美しいイザベルはたちまちイギリスの人たちを魅了し、なかでも貴族のウォーバトン卿は彼女を熱烈に愛するようになり求婚する。しかしイザベルはまだ結婚したくはなかった。自由を愛する彼女は自分の目でもっ…
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『ニーベルンゲンの歌』

血の饗宴。 竜を退治したときその血を全身に浴びたため不死身の身体を手に入れたニーダーラントの王子ジークフリートは、ブルグント国の美しい姫クリームヒルトを妻に迎える。同じころ、クリームヒルトの兄にしてブルグント国王のグンターは女傑ブリュンヒルトを妻とする。あるときクリームヒルトとブリュンヒルトはそれぞれの夫をめぐって口論となり、ブル…
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『薔薇物語』 ギヨーム・ド・ロリス/ジャン・ド・マン

恋愛のディスクール。 さわやかな五月の朝、語り手は夢のなかで美しい<悦楽の園>に迷い込む。その庭園でいまにも咲かんとする一輪の薔薇の蕾を見たとき、背後から<愛の神>の矢に射抜かれた語り手は恋に落ちる。薔薇の蕾に口づけたい。けれども<拒絶>が出現し語り手を追放し、さらには<中傷>が<嫉妬>が庭園の周囲に城壁をめぐらせ語り手の恋を阻む…
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『カンディード 他五篇』 ヴォルテール

善悪の彼岸。 純真無垢な青年カンディードは男爵令嬢キュネゴンドに恋するがそれが男爵の不興を買い、故郷ウェストファリアを追放される。故郷にいたころ彼は師のパングロス博士が提唱する最善説の信奉者だった。最善説とはこの世の一切が(人間にはどう見えるにせよ)善であるとする哲学上の立場だ。さて追放されたカンディードは諸国を放浪する。ドイツか…
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『パウル・ツェラン詩文集』 パウル・ツェラン

災厄のあとで。 戦後の世界有数の詩人といわれるツェランの詩と詩論を収録する。このうち詩は、昨年3月に起きた東日本大震災の状況において心に響く詩を、という趣旨で選択されたもの。本書の冒頭にはツェランの代表作である「死のフーガ」が収められている。 パウル・ツェラン(本名パウル・ペサハ・アンチェル)は1920年に旧ルーマニア領、現…
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『わたしの名は赤』 オルハン・パムク

文明の衝突。 16世紀末、オスマン帝国はイスタンブル。隣国サファヴィー朝ペルシアとの戦争は長引き、巷には贋金が横行し、人々は聖典が禁じる珈琲を提供する珈琲店に出入りし、そうした堕落を正そうとするイスラム教原理主義の過激派グループが暗躍している。この不穏な帝都である夜、一人の名人絵師が何者かに殺害される。その背後にはイスラム教が禁じ…
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『白鯨』 メルヴィル

老人と鯨。 小説の語り手である青年イシュメールは財布がほとんど底をつき、陸での暮らしに物足りなさを感じて捕鯨船に乗ることを決意して海へ向かい、途中で同宿となり親しくなった銛打ちのクイークェグとともにナンターケットから出航するピークオッド号に乗り込む。船長の名はエイハブといった。怪物めいた白い巨鯨モービィ・ディックに片脚を奪われ、そ…
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『カヴァフィス全詩集』 カヴァフィス

詩の魔法。 現代ギリシア最大の詩人といわれるカヴァフィスの詩は多彩だ。そこにはギリシアの神話が、歴史上の事件が、不毛な愛が、過ぎ去り帰らないものへの愛惜が、皮肉な視線が、老いへの恐怖がある。神話や歴史の一場面を再現してそこで生きる個人の苦渋を語るのがカヴァフィス詩の特徴のひとつとしてあり、彼の詩は非常に物語性に、また諷刺に富んでい…
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『終わりと始まり』 ヴィスワヴァ・シンボルスカ

アウシュビッツのあとに。 1923年、ポーランド西部の村ブニンに生まれ、1996年にノーベル文学賞を受賞した詩人の詩集。詩人としてのデビューは1945年だが、訳者によると禁欲的な彼女は濫作をせず、5年、10年おきにしか詩集を出さず、書評を除いては小説やエッセイなど「不純な」ジャンルには手を染めず、ただ詩のみを書き続けてきたという。…
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