epi の十年千冊。

アクセスカウンタ

zoom RSS 78) 『長い道』 こうの史代

<<   作成日時 : 2006/12/03 22:16   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

画像


こうの史代さんの漫画は『夕凪の街 桜の国』しか読んだことがなくて、でもあの絵が好きでずっと気になっていて、本屋に行ったらこの本が置いてあったので手にとって表紙を眺めたら黄色がかったその絵にすっかり魅せられ、どういう内容か全然分からなかったけれどもそのままレジへ持っていった。

帰宅して最初のページを開いたらなんだかほんわかラブストーリーを思わせる絵が描いてあって「ふーん。そういうのなのか」と思いつつ読み始めたら…いやあ、こういう漫画だったとは。ユーモアいっぱいに夫婦の日常をやさしい視線とあたたかな絵で描いた、とにかくすてきな一冊。これはいい。すごくいい。

日々を大切に生きよう。
毎日を丁寧に生きよう。
つねにそう思って生きていきたいと思いつつも仕事が忙しくなれば心はささくれ立つし、人間関係で面白くないことがあれば足取りもすさんでくる。部屋は散らかったままになるし、ヒゲを剃るのも雑になる。身だしなみが乱れれば、言動もつられて悪くなる悪循環。それを自覚していながら、「仕方ないじゃん。生きてるんだからさあ」と開き直って酒場でだらしなくウーロンハイを飲むような人間になっていたとしても、もっと若い頃の自分が今の自分を見たらどう思うだろうなんて感傷が酔いの隙間からちらと差せば悪酔いするに決まっていて、翌日は重い頭とむかむかする胸をなだめすかして一日をやり過ごす羽目になる。

本書を読みながら幾度となく、結局のところ人生に必要なのは向上心とか競争心とか勤勉さとかではなくて、晴朗なユーモアと他人を思いやる心、そして何より楽しいときも辛いときも病めるときも健やかなときも、一度きりしかない人生のかけがえのない時間を共有できる誰かの存在なのだなあと改めて思った。要するに愛だと。

漫画は一話完結のストーリーで、二人の男女のゆるい日々を描いているだけなのだけれど、読んでいて、この抒情、このユーモアに溢れた世界に何度嫉妬したことか。ほとんど絶望に近い羨ましささえ覚えた。いやホントに。

いいなあ。こういうふうに日々を送れたら。
こうのさんの上品なユーモアセンスにはただただ嘆息するばかり。『夕凪の街 桜の国』よりむしろこっちのほうが著者の本領なのではないだろうか。「好き勝手に描けた」とあとがきにあったけれどそれがとてもよい方に作用していて、何かを読んでいてこんな幸せな気持になれたのも久しぶりな気がする。
とくに「水鏡」の章。これは鳥肌ものの素晴らしさ。こういうのを描かれてしまうと…こうの作品を全部読みたくなってしまう。

こうのさんの好きな言葉はジッドの「わたしは真の栄誉をかくし持つ人間を書きたいと思っている」だそうで、わたしには真の栄誉だとかそういう難しいことはよく分からないけれども別に確かに言えることもあって、このひとの漫画は現代の消費社会にあって決して消費したくないもののひとつだということ。この漫画は本当にいい。長々と拙い感想文を書いてしまったが結局言いたかったのはただその一言なのでした。
(双葉社)

4575939625長い道
こうの 史代
双葉社 2005-07-28

by G-Tools

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
78) 『長い道』 こうの史代 epi の十年千冊。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる