『森の小道・二人の姉妹』 シュティフター

美徳の幸福。 心温まるシュティフターの短篇を二篇収録する。「森の小道」は、裕福さのなかで怠惰に陥った語り手が、療養のため訪れた保養地で森に迷い、そこで農民の女と出会い、その善良さに惹かれて彼女と結ばれるというもの。ほのぼのとした作風で筋は単純、ユーモアもあって読んで楽しい大人向けのお伽話といった趣がある。 「二人の姉妹」のほ…
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『砂の女』 安部公房

囚われの男。 昭和30年の夏。どこか海沿いの集落に、昆虫採集を目的にした一人の男が現れる。彼は、砂地にこそ、自分が求める新種のハンミョウがいると考えてこの集落にやって来たのだった。しかし成果は挙がらず、やがて日が暮れる。男は地元の老人に声をかける。どこか泊まれるところはないか。誰かに口をきいてやってもいい、老人はそう言い、男を案内…
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『オン・ザ・ロード』 ジャック・ケルアック

さらば青春の光。 1947年から1950年にかけて、語り手はアメリカ各地を放浪する。徒歩で、ヒッチハイクで、バスで、鉄道で、自動車で。彼を路上へと誘うのは親友のディーン・モリアーティだ。ディーンは「半端仕事と女の子と楽しいこと」を求めて車で国中をまわっている精力的な若者で、彼の野性味や無垢が語り手を魅了する。目的なんてない。ただ、…
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『ハムレット』 シェイクスピア

仮面の男。 訳者を変えて何度めかの再読になる。あらすじについては以前に書いた『ハムレット Q1』の記事から転載する。 デンマーク王国のエルシノア。急死した王に代わって彼の弟のクローディアスが王位に就き、その傍らにはかつての兄嫁ガートルードがいる。王子ハムレットは悲しみに沈むある夜、父親の亡霊と対面する。亡霊は告げる。自分は弟…
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『こころ朗らなれ、誰もみな』 アーネスト・ヘミングウェイ

趣味の問題。 ヘミングウェイの短篇を18篇と未完の長篇「最後の原野」を収録する。訳者好みの、「いわゆる男女関係を中心に据えた作品のほとんどない、代わりに、何らかの意味で壊れた人間を描いた、悲惨さを壮絶なユーモアで覆ったように思える作品」が収録されている。 管理人はヘミングウェイのよい読者ではない。これまでに長篇と短篇集を幾つ…
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『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル

きみを夏の一日にたとえようか。 5月のある暑い日。7歳の少女アリスが土手のうえで退屈していると、紳士のような白うさぎを見かける。彼女は追いかけて穴に落ちる。その先はノンセンスがまかりとおる不思議の国だった。そこで彼女は、身体が大きくなったり小さくなったり、人語を喋る動物たちと謎めいた問答をしたり、意味不明な身の上話や詩を聞かされた…
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『ペロー童話集』 シャルル・ペロー

文学のふるさと。 17世紀末のフランス。文才に恵まれた宮廷人シャルル・ペローは晩年に民話、説話を収集し、ときに手を加えて一冊の本にまとめる。 今日のわれわれがよく知る「眠りの森の美女」「赤頭巾ちゃん」「長靴をはいた猫」「サンドリヨン(シンデレラ)」などがそのなかには含まれている。100年ほど彼に遅れてドイツではグリム兄弟が口承説話…
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『審判』 カフカ

あるいは「訴訟」。 30歳の誕生日の朝、銀行の支配人ヨーゼフ・Kは身に何の覚えもないまま逮捕され、無実を訴えるも空しく、31歳の誕生日の前日に町外れで処刑される。 幾度めかの再読。本作は『変身』と並んでおそらくはもっとも多くの読者を得ただろうカフカの代表作であるが、同時期に書かれた『失踪者』同様、最終的には未完のまま放棄され…
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『失踪者』 カフカ

あるいは「アメリカ」。 カール・ロスマンは17歳(16歳)。女中を妊娠させてしまったのでアメリカへ追放される。新天地での生活のあてはなかったが、偶然にも同じ船に伯父が乗っていたため、ニューヨークにある彼の屋敷に身を寄せることになる。あるときカールは伯父の制止を振り切って銀行家の屋敷を訪問してしまったために伯父の怒りを買い、絶縁を宣…
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『死の島』 福永武彦

福永武彦の集大成。 敗戦が人々の記憶から薄れつつある昭和20年代末の東京。小説家志望の若き編集者、相馬鼎は、美術展で一枚の絵に惹きつけられる。この世の終わりを暗示するかのような暗い島の絵。画家の名は萌木素子とあった。相馬が出版物の装丁を依頼する目的でこの女性画家を訪問すると、そこには彼女と同居しているという若い女もいて、彼女は相見…
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『母アンナの子連れ従軍記』 ブレヒト

度胸アンナとその子どもたち。 17世紀、旧教と新教が争う凄惨な30年戦争まっただなかのスウェーデン。幌車を引き、軍隊に随行して戦場を転々としながら抜け目なく儲けを狙うのはドイツの女商人アンナ。彼女に同行するのはそれぞれ父親が異なる三人の子どもたち。アンナは兵士たちから「度胸アンナ」とあだ名される。彼女に言わせると、ドイツの人口が1…
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『おれにはアメリカの歌声が聴こえる』 ホイットマン

抄訳『草の葉』。 19世紀アメリカ文学を代表する詩人ウォルト・ホイットマン唯一の詩集『草の葉』。この長大な詩集(岩波文庫の完訳版では三分冊)から19篇を収録。西欧諸国に並ぼうと凄まじい速度で発展していくアメリカの激動時代を生きたホイットマンは、この国こそ最良の詩の題材と信じてひたすらアメリカをうたった。おおらかで、鈍くて、正義感が…
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『ソラリス』 スタニスワフ・レム

未知との遭遇。 惑星ソラリス。赤と青の二つの太陽の周りを回り、ほぼ全面が海に覆われた、地球から遥か彼方の星。ここで生きている生命体はたった一種類、ソラリスの海だけだった。惑星全体を覆うこの海は巨大な原形質の脳であり、人間は地球外生命体とのコンタクトのためにこの星に調査隊を派遣した。しかし結果は芳しくなかった。ソラリスの海は人間の想…
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『万延元年のフットボール』 大江健三郎

地と血。 はじめに語り手がふたつの困難に直面していることが述べられる。親友の異常な方法での自殺と、生まれた子どもの障害。語り手は子どもを施設に預けるとアルコール依存症の妻を連れ、アメリカから帰国した弟の鷹四に誘われて故郷の愛媛へ帰郷する。兄と弟のほかの家族はすでにこの世にない。到着すると故郷は以前語り手が知っていた時分とは様子を変…
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『個人的な体験』 大江健三郎

新生。 鳥(バード)は27歳の予備校教師。近く出産予定の妻は入院している。もうすぐ父親になる彼にはひそかな願望があった。アフリカへ行くこと。小説は彼が書店でアフリカの地図を購入する場面からはじまる。彼は妻と、もうすぐ生まれる子どもへの情愛をもてずにいる。状況を確認するために病院へかける電話は義務的だ。やがて妻は予定通り出産する。産…
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『死者の奢り・飼育』 大江健三郎

壁。 「死者の奢り」の語り手は、解剖に使用する死体を古い水槽から新しい水槽へ移動させるアルバイトに応募した大学生だ。死体処理室に勤務するベテランの管理人と、語り手と同じくアルバイトの女子学生の3人で、朝から夕方まで、重い死体を担架に乗せて運ぶ肉体労働に従事する。語り手は水槽に浮かぶ死者たちの声が聞こえるようで、彼らに奇妙な親近感―…
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『詩人たちの世紀』 新倉俊一

革新の詩学。 エズラ・パウンドと西脇順三郎。モダニズムの詩人二人を「合わせ鏡」として、20世紀前半の現代詩運動を振り返る。 1885年にアイダホ州で生れたパウンドは、23歳でアメリカを出てヴェニス経由でロンドンに入る。当時の詩壇の大御所イェイツと知り合い、彼の家で開かれる「月曜会」の常連となるが、俳句からヒントを得た「事物を…
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『孤独な散歩者の夢想』 ルソー

夢を歩く。 1762年、パリの高等法院は『エミール』の内容にキリスト教の教義を批判した箇所があると裁き、同書はフランス政府から禁書処分を受け、著者ルソーに逮捕状が出される。追手を逃れて各地を転々とするなかで、ルソーはこの背後に陰謀同盟があり、みなが自分を迫害しようとしているのだと妄想するようになる。手を回しているのは論敵ヴォルテー…
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『デ・トゥーシュの騎士』 バルベー・ドールヴィイ

ふくろう党血風録。 フランス革命の時代、共和派と王党派の戦いが激化するなか、イギリスに逃れたブルボン家と、フランスに残った王党派との連絡士官を務めたジャック・デ・トゥーシュという若い騎士が、共和派に捕らえられる。王党派のゲリラ集団「ふくろう党」はこの若者の救出に向かい、奪回に成功する。本作は細部に脚色を交えながら、1799年に実際…
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『第五の書』 ラブレー

死者の書。 『第四の書』を刊行した翌年の1553年、ラブレーは逝去する。その11年後、カトリックとプロテスタントによる宗教戦争の最中に、ラブレー作として『第五の書』が刊行される。これはラブレーの遺作なのか、彼の名を騙る別の人物が書いたのか。訳者によると、『第五の書』(三つのテクストの集合体)は編者がラブレーの草稿を基にしている可能…
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