『「伝える」ことと「伝わる」こと』 中井久夫

冷静とぬくもり。 4部構成。主としてⅠ部では統合失調症治療について、Ⅱ部では絵画療法について、Ⅲ部では心身の健康について、Ⅳ部では書くことについての文章を収録する。コレクションの3巻もそうだったが、本書の収録内容もバラエティに富んでいる。初出は1970年代から2011年までと幅広いが大半は1980年代。 専門的な文章が多くを…
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『「思春期を考える」ことについて』 中井久夫

病いと社会。 四部構成。主としてⅠ部は思春期における精神病や教育問題について、Ⅱ部は妄想や軽症うつ病、慢性アルコール中毒の治療について、Ⅲ部は病跡学について、Ⅳ部はサリヴァンの生涯と業績について、などの文章を収録する。書かれたのは70年代から80年代前半にかけて。この巻はコレクションの前二巻と比較してよりバラエティに富んだ内容にな…
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『「つながり」の精神病理』 中井久夫

深淵の家族。 三部構成。主として、Ⅰ部では患者と家族の関係について、Ⅱ部では少年期から老年期までの精神病理について、Ⅲ部では著者自身と精神科医療との関係についての文章が収録されている。書かれたのは80年代から95年の震災以前。 単純な知的好奇心以外に、なぜ精神病理について読むのかと問われたなら、本書中の著者の言葉がそのまま答…
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『世に棲む患者』 中井久夫

病いとともに生きる。 精神科医が臨床を通じて得た知見を述べる。三部構成になっており、主としてⅠ部では統合失調症患者の治療周辺について、Ⅱ部では統合失調症、慢性アルコール中毒症、妄想症、境界例、強迫症等について、Ⅲ部では医師と患者との関係について。 Ⅰ部は方法論として読める。精神病の治療とは、患者が発病以前の状態に戻ることでは…
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『ドン・キホーテ』 セルバンテス

さようなら、わたしの本よ。 再読、何度でも読む。17世紀初頭、スペインはラ・マンチャのある村。郷士(下級貴族)のアロンソ・キハーノは50歳を過ぎている。彼は騎士道物語を読み続けた結果そこに書かれた空想と現実の区別がつかなくなり、遂には現在では廃れた騎士道を再び蘇らせんとして自ら遍歴の騎士ドン・キホーテと名乗り、痩せ馬ロシナンテに跨…
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『六号病棟・退屈な話 他五篇』 チェーホフ

非情の文学。 収録された7篇には医療や病いといったモチーフが共通する。アントン・チェーホフはまず医師であり、作家は本業ではなかった。少なくともそういう趣旨の発言を残している(「医学は正妻で文学は情婦」)。彼は真正の科学者であり、その立場からゾラの「科学」性を批判してもいる。「自分の顕微鏡や短針やメスなどが使える場所でなければ、真理…
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『火の娘たち』 ネルヴァル

夢は第二の生。 再読。ネルヴァルが生前最後に刊行(1854年)した作品集。プルーストに霊感を与えたことで名高い「シルヴィ」は管理人があらゆる小説のうちでとくに偏愛する、もしかしたら最愛かもしれない一篇であり、思い入れが強すぎるから大したことは書けない。 パリで無為の暮らしを送る語り手はある女優に憧憬を抱いている。この女優は、…
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『日本文化私観』 坂口安吾

生きろ。 坂口安吾による日本人論、文学論、政治論を主として収録している。安吾の思想はいたって実利的かつ真正直なものであり、解説の川本三郎氏が指摘しているように「健康的」だ。「日本文化私観」の有名な一説、「京都の寺や奈良の仏像が全滅しても困らないが、電車が動かなくては困るのだ」には、現実的な彼の思想が端的に表れている(「問題は、伝統…
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『完訳 緋文字』 ホーソーン

罪と罰。 1640年代のボストン。人々が見つめるなか、広場のさらし台に立つ一人の若い女がいる。名前はヘスター・プリン。衣服の胸に赤く刺繍されたAの文字をつけ、姦通の結果授かった赤子を抱いている。町の人々は責め立てる、その子の父親の名を明かせと。しかしヘスターは拒み通す。彼女を取り巻く群衆のなかには、はるばるヨーロッパからやって来た…
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『夜と霧 新版』 ヴィクトール・E・フランクル

それでも生にしかりという。 再読。内容について改めて紹介するまでもないだろう、ロングセラーの一冊。ナチスの強制収容所から生還した精神科医が自身の体験と観察を述べる。著者ははじめアウシュビッツに収容され、のちテュルクハイムに移送、そこでアメリカ軍によって解放されている。 ナチスの強制収容所がいかなる場所であったか、今日ならば多…
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『望郷と海』 石原吉郎

沈黙の底から。 シベリアで8年に及ぶ収容所生活を送った詩人のエッセイ集。著者は1945年にソ連軍に逮捕され、1949年に中央アジア軍管区軍法会議の臨時法廷で「戦争犯罪人」として裁かれる。判決は重労働25年。行き先は、ソ連の囚人たちがもっとも恐れるバム(バイカル―アムール鉄道沿線)の密林だった。氷点下40度にもなる過酷な気候の下、森…
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『嵐が丘』 E・ブロンテ

荒野のヒース。 ロンドンの雑踏に疲れたロックウッド青年は、しばしの孤独を味わうため、ヨークシャーの荒野に建っている屋敷「嵐が丘」を借りて住むことにした。家主のヒースクリフに挨拶に行くと冷淡に対応されるが、彼と彼の同居人にロックウッドは興味を覚える。嵐が丘に帰り家政婦のネリーにあの人は何者なのかと訊ねると、彼女は数十年まえに遡ってヒ…
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『高慢と偏見』 ジェイン・オースティン

第一印象。 イギリスはハーフォードシャー州ロングボーン村の地主ベネット氏には5人の娘がいて、上の娘たちは適齢期を迎えるが結婚の相手はいまのところいない。夫人は早く娘たちを片付けたくてやきもきしている。そんな折、近所の屋敷にビングリーという、裕福な若い独身男が引っ越してくる。色めき立つのは娘たちよりもむしろベネット夫人だ。ベネット家…
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『散文小品集Ⅰ』 ローベルト・ヴァルザー

散歩者の夢想。 いま管理人に読むことの喜びをもっとも与えてくれる作家の作品集の4巻(事情により3巻より先に刊行された)。ヴァルザーは35年の執筆期間に、短篇よりもさらに短い「散文小品」を千数百篇書いた。本書はそのなかから、「路上で」「会社で」「劇場」「ベルリン」「テクストは踊る」「作家の肖像」「僕はどうなったのか」の7つのセクショ…
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『助手』 ローベルト・ヴァルザー

緩やかさ。 ある夏の朝、緑豊かな村の湖畔に建つ「宵の明星館」にヨーゼフ青年がやって来るところから小説ははじまる。失業していた彼は職業紹介所の斡旋でこの屋敷の主人、発明家トープラーの助手として雇われたのだった。トープラーは現在、発明したての広告プレート付き時計の宣伝に忙しい。助手ヨーゼフの業務は主人の秘書兼帳簿係を務めること。屋敷の…
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『この人を見よ』 ニーチェ

ニーチェと健康。 本書が書かれたのは1888年の秋。ニーチェは44歳だった。翌年、トリノの広場で昏倒してのち、1900年に逝去するまで「精神の闇」に囚われることになる彼の、最後期の著作になる。それまで殆ど黙殺されてきたニーチェは晩年になって外国で注目されるようになり、読者の数を増しつつあった。この高揚と、注目の的となりつつある自身…
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『喜ばしき知恵』 フリードリヒ・ニーチェ

着飾れ、踊れ、笑え。 1869年、ニーチェは24歳の若さでバーゼル大学の教授(古典文献学)となるも、10年後の1879年、健康の悪化を理由に退職する。本人によると頭痛・嘔吐をはじめとする身体の病気はあくまで二次的なものであり、真の病いはバーゼル大学教授職に就いたという「失策」による「自己喪失」だった。本然とは異なる職に就いて「異常…
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『悪徳の栄え』 マルキ・ド・サド

悪徳の幸福。 裕福な家に育ったが、両親の死によって貧しい孤児となったジュリエットとジュスチーヌの幼い姉妹。姉は、妹が無邪気に信奉する美徳と訣別して、より充実した生のために悪徳の道に身を投じる。育てられた修道院で性の喜びを知ったのち、売春宿で体を売り、ときに盗みを犯しながら、関わる人々から悪の哲学を吹き込まれて意識的な遊蕩者へと成長…
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『灯台へ』 ヴァージニア・ウルフ

母の肖像。 再読、何度でも読む。スコットランドはヘブリディーズの島。ここに別荘を構える中年のラムジー夫妻には8人の子どもがいて、わけても末っ子のジェイムズは母の愛を享けている。別荘からは灯台が見え、夜の闇に明滅する灯りはジェイムズの憧憬をかきたてる。明日、あの島へ家族で出かけることになっている。しかし、いまから楽しみを待ちきれない…
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『ウルフの部屋』 宮田恭子

病いの代償。 ヴァージニア・ウルフに縁深い三つの土地――少女期の夏を過ごしたセント・アイヴズ、作家として自立しつつあった時期に訪れたチャールストン、夫レナードの庇護のもと暮らしたロドメル――を軸に、その土地で過ごした時期にウルフに重大な影響を与えた人々との関係を絡めて三章に分け、彼女の文学と人に迫る。 ウルフは――こ…
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