テーマ:海外の小説

『運命論者ジャックとその主人』 ドニ・ディドロ

脱線、ふたたび。 貴族の主人と従者ジャックがあてのない旅をしている。ジャックは主人に述べる。この世で起きることのすべては天上の大巻物にあらかじめ書かれてあるのだと。けれども人がそれを知ることはできない。暗闇のなかを手さぐりで進むように、人は定められた生を定められたとおりに生きるしかない。いまいる場所は崖の一歩手前であり、足を踏み出…
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『ギルガメシュ叙事詩』

始原の呼び声。 世界最古の叙事詩『ギルガメシュ叙事詩』はメソポタミア地方で成立した。ギルガメシュは紀元前2600年頃に実在したシュメルの都市国家ウルクの王。彼は死後まもなく神格化され、その英雄的行為をめぐるさまざまな伝承が古バビロニア時代(前1950~1530年)には成立していたことが判明している。古バビロニア時代に成立した『叙事…
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『トリストラム・シャンディ』 ロレンス・スターン

脱線また脱線。 著者の分身である語り手トリストラム・シャンディが自伝的に自身の生涯を述べ、諸問題(時事問題や恋愛や宗教をはじめ卑俗なことがらまで)に関する意見を開陳をしていく。生涯といっても語り手は上巻の終わり近くになるまで産まれず、また産まれてからもなかなか成長せず、未完の本作が中断する下巻の最後まで子どものままなのでほとんど彼…
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『ミヒャエル・コールハースの運命』 クライスト

復讐の彼方に。 16世紀の中ごろ。馬商人のコールハースは篤実な人柄で、商売もうまくいっており、愛する妻と子どもたちに囲まれ、雇い人たちからは敬われ、ザクセン公国で不自由ない暮らしを送っていた、領主が(支配階級ゆえの驕りから)彼の自慢の馬を奪うまでは。支配階級の横暴さに腹を立てたコールハースは損害賠償を求める訴えを選帝侯に提出するも…
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『ファウスト』 ゲーテ

地上の快楽をめぐる旅へ。 あらゆる学問を修めたファウスト博士は嘆く。「いぜんとしてこのとおりの哀れなバカときている。ちっとも利口になっちゃあいない」。書物を読み漁り知識を得たつもりでいたのに辿りついた先には憂いが待っていた。「せっせと人間精神の宝物を集めたがムダごとだった。その上に腰を落ち着けたが、さっぱり新しい力が湧いてこないの…
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『賜物』 ナボコフ

失われた祖国を求めて。 1920年代のベルリン。革命のためロシアから亡命してきた青年貴族フョードルは最初の詩集を出版したばかりの駆け出しの文学者だ。母と姉はパリで暮らしている。世界的な鱗翅類学者の父は数年前に中央アジアに探検旅行に出発したきり消息を絶っている。父の死は予感されているものの家族は希望を捨てておらず彼の帰還を信じている…
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『そんな日の雨傘に』 ヴィルヘルム・ゲナツィーノ

どこにも居場所はない。 述べられるのはドイツはフランクフルトらしい都市(訳者あとがきによる)をさまよう語り手の日常。 46歳。無職。彼の暮らしを支えてきた恋人は愛想を尽かして去っていった。「自分は、自分の心の許可なくこの世にいる、という気分」に憑かれた語り手。どうして自分はここにこうして生きているのか。彼はモノローグで幾度も狂気…
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『チャンドス卿の手紙 アンドレアス』 ホフマンスタール

夢幻の世界。 4篇の短篇と未完の「アンドレアス」の完成稿を収録する。夢と現の境界が曖昧になり、境界を越えて異界へと迷い込んでいく。本書に収録の作品群の特徴だ。「六百七十二夜の物語」はその特徴の最たるもので、美貌の青年が数人の召使を除いて他者との接触を拒み象牙の塔に閉じこもるも、外界はそれを許してくれず、超自然的な力でもってこの青年…
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『タンナー兄弟姉妹』 ローベルト・ヴァルザー

テクストの快楽。 20歳のジーモン・タンナー青年は現代でいうフリーターだ。小説は彼が書店主にここで働かせてほしい、と頼む場面からはじまる。けれどもすぐに職場に嫌気が差して去ってしまう。彼はそのあと銀行の見習い、弁護士事務所の助手、住み込みの家事手伝いの職を転々とするがどれも長続きしない。季節はめぐり小説の終盤では1年が経過している…
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『ヴォイツェク ダントンの死 レンツ』 ビューヒナー

圧巻。 ゲオルク・ビューヒナーは24歳で夭折した19世紀ドイツの劇作家。彼が残したわずかな作品のうち、短篇小説「レンツ」と戯曲「ヴォイツェク」(未完)、「ダントンの死」を収録する。 「レンツ」は、一時はゲーテと並んで18世紀ドイツ文学を代表する作家といわれたヤーコプ・レンツの生涯を小説化したもの。レンツはすぐれた戯曲を何作も…
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『ホフマン短篇集』 ホフマン

影絵芝居のような。 「クレスペル顧問官」「G町のジェズイット教会」「ファールンの鉱山」「砂男」「廃屋」「隅の窓」の6篇の短篇を収録する。「隅の窓」を除く5篇には共通点があって、どれもある人物への恋情が嵩じた結果日常の秩序を踏み外し、幻想の領域へと迷いこんでしまう人たちの物語だ。そして終わりに死が扱われる。恋情はすなわち憧憬…
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『見えない都市』 イタロ・カルヴィーノ

奇想の諸都市へ。 マルコ・ポーロが旅した55の都市をフビライ汗に語る。諸都市のどれもが尋常ではない。記憶のなかにのみ存在する都市、地底湖の上に建設された都市、永遠に建設中の都市、死者と生者が共生する都市などなど。都市の由来やその外貌、そこに暮らす人間たちについてのポーロの語りはどれもスケッチと呼べるほどに短い。このスケッチのなかに…
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『チリの地震』 ハインリヒ・フォン・クライスト

運命に翻弄される人々。 表題作を含めて6篇の短篇と2篇のエッセーを収録する。 表題作の舞台は17世紀、大地震に見舞われたチリ王国の首都サンチャゴ。牢獄に繋がれていた男はこの地震で倒壊した建物から脱出し、愛する女を求めて市中をさまよう。やがて愛する女と再会し喜び合うのも束の間、災害に遭って混乱し暴徒と化した市民たちに襲われて恋人た…
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『青い花』 ノヴァーリス

あの夜、夢に見た花の名前は。 ドイツ・ロマン派を代表する詩人による小説。二部構成になっていて第一部は完結しているが第二部は著者の死によって未完に終わった。 青年ハインリヒが詩人としての自己を形成する遍歴を幻想的に述べる。ある夜、ハインリヒは青い花の夢を見る。その花のなかには美しい少女の顔がぼんやり浮かんでいた。大いなるもの、無限…
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『ネクロフィリア』 ガブリエル・ヴィットコップ

エロスとタナトス。 骨董店を営む語り手のリュシアンは屍体愛好者だ。彼は老若男女を問わず気に入った屍体と同衾する。屍体は腐敗を免れない。さんざん愛の行為を繰り返したあとで崩壊していく「恋人」を、語り手はセーヌ川に流して別離する。そして新しい「恋人」を求めて墓地をさまよう。 小説は語り手の日記の形式になっている。彼の屍体愛好は倒…
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『フェルディドゥルケ』 W.ゴンブローヴィッチ

永遠の未成熟のために。 30歳の語り手が、ある日突然中学生に「縮小」して騒動を巻き起こす(巻き込まれる)。冒頭から自意識に縛られた饒舌なモノローグがえんえん続き、登場する人物みな個性豊かで騒々しい。小説は多く主題を扱うが、主要となるのは「未成熟」の問題だ。著者は本作執筆以前に短篇集を出版していてこれが未熟だと批判されたため、今度は…
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『水晶 他三篇』 シュティフター

短篇集『石さまざま』から4篇を精選。 「水晶」「みかげ石」「石灰石」「石乳」、短篇には石の名がつけられている。著者は短篇集の名について「すべての人間は他のすべての人間にとって一個の宝石である」と述べている。19世紀のオーストリアの豊かな自然を背景に、そこで生きる人たちの姿を限りない愛情をもって描く。自然はわれわれには統御できないお…
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『眩暈』 エリアス・カネッティ

錯乱と狂気の小説世界。 ペーター・キーンは当代随一の中国学者で、読んだ書物の内容をすべて記憶できる博覧強記の人だ。大学には勤めず親の遺産によって在野の学者として生き、万巻の書物で四方を埋め尽くした部屋で研究に明け暮れる。独身であり世事に煩わされることも少ない。朝は一時間の散歩、それから研究。身の周りの用事は家政婦が世話する。規則正…
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『ガリバー旅行記』 ジョナサン・スウィフト

空想から呪詛へ。 船医ガリバーによる旅行記。小人の国(リリパット)と巨人の国(ブロブディンナグ)の箇所が多くの人に知られているが、この二国への旅は本編の半分に過ぎない。二国を旅したのちガリバーはさらに浮遊島(ラピュタ)、不死者の住む国(ラグナグ)、わずかな滞在ながら日本、そして理性の国ともいうべきフウイヌムへと辿りつくだろう。 …
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『サトラップの息子』 アンリ・トロワイヤ

自伝的に。 ロシア革命を逃れて家族とともにフランスへ命からがら亡命したリューリク少年は、パリで2歳年長の友人ニキータと再会する。同じ亡命者同士とはいえ、リューリクとニキータの境遇は大いに異なっていた。革命の際に財産の大半を失い、いまは貧窮にあえぐリューリクの一家。要領よく立ち回ってひと財産築いて裕福に暮らすニキータの一家。リューリ…
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『尼僧ヨアンナ』 イヴァシュキェヴィッチ

信仰と愛。 中世末期。ポーランドの小村にあるウルシュラ修道院の尼僧長「天使の」ヨアンナの身体には6体の悪魔が憑いていた。悪魔はときとしてヨアンナの意識をのっとり、彼女に悲鳴を上げさせ身体を操った。彼女のほかの尼僧たちにも悪魔は憑き、修道院内は悪魔憑きの病的な空気に深く包まれていた。事態を収拾するため教会から派遣されたスーリン神父は…
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『バンビ』 フェーリクス・ザルテン

森に生き、森に死ぬいのちのこと。 ノロジカの子バンビは深い森に生まれた。母親に大事にされて育つ。森のなかには多くの動物たちがいた。リスやウサギやフクロウたち。バンビは母親に連れられて森のなかを抜け、草原に出ることを覚える。はじめて浴びる陽光の眩しさ。同じノロジカの仲間にも出会う。そのうちの一人と、彼はやがて結ばれることになる。そし…
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『南回帰線』 ヘンリー・ミラー

シュルレアリスティックな私小説。 1920年代。イギリスを抜いて世界一の工業国となったアメリカは未曾有の経済繁栄を迎えていた。自動車産業や家電産業がそれを牽引し、広告産業の発展が市民の購買意欲を大いに煽り、それに伴いローン販売が普及し、大量生産、大量消費という現代に続く経済の流れを準備した。そんな「富と幸福」に彩られた「黄金の20…
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『ツァラトゥストラ』 ニーチェ

聖書のパロディ。 「神の死」、「超人」、「永遠回帰」といったフレーズが特徴的なニーチェのこの主著は、哲学書というよりは思想詩といったほうがよいだろう。4部にわかれて物語としての結構をもっている。原題は「こう言ったのがツァラトゥストラである」となるそうで、そのとおりの、山上の賢者ツァラトゥストラの説教集となっている。その内容はキリス…
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『黒い蜘蛛』 ゴットヘルフ

人間の弱さの象徴としての蜘蛛。 かつてスイスのある村は横暴な領主によって統治されていた。領主は農民たちを奴隷のように扱い、困難な労働に酷使することを当然と考えていた。領主の課す無理難題に疲弊しきった農民たちの前に、一人の謎めいた男が現れる。彼は、農民たちが課せられた労働を代わってやってもよい、しかし条件として洗礼前の幼児が…
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『オブローモフ』 ゴンチャロフ

「無用者」の死まで。 30歳を過ぎた貴族のオブローモフは怠惰を絵に描いたような人物だ。彼は汚れた部屋着を着て、散らかった部屋でベッドに寝そべって何をするでもない。読書も書き物も社交もすべてが面倒くさい。部屋にひきこもって旨い食事と酒を楽しみ、たまの訪問客を相手に世間話をしてその日その日をだらだらと過ごしている。とはいえ、彼は決して…
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『トーニオ・クレーガー 他一篇』 トーマス・マン

トーマス・マンにとっての『ウェルテル』。 トーニオは内省的で孤独な少年だ。彼は同じ学校に通う、勉強ができて運動も得意なハンス・ハンゼンにひそかに憧れ、彼と友情を築きたいと願っていた。ハンスは美しい外貌をしていて、それだけでもトーニオは羨望を覚えた。孤独ゆえに生じる夢想に浸り、詩を書かずにはいられないトーニオとは正反対に、ハンスは健…
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『馬を盗みに』 ペール・ペッテルソン

半世紀の時を挟み、交互に述べられる、老境の今と少年時代の夏。 70歳のトロンド老人は3年前に妻を交通事故で亡くし、経営していた会社を売却し、その金でノルウェーの田舎に一軒の中古住宅を購入した。改装は自らの手で行い、電話は引かず、暖は薪ストーブでとり、寒く長い夜はディケンズを読んで過ごす。娘と別れ、新しい住所も告げず、施設から拾った…
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『夢の丘』 アーサー・マッケン

孤独な青年の夢想。 イギリスの田舎町で育ったルシアン・テイラーはふるさとを愛し、人の立ち入らない山の奥やいまは廃墟となった砦を独り訪れては夢想をたくましくし、想像の世界を脳裡に豊かに描き出し、自分だけの世界に遊ぶのが習い性になっていた。夢想癖のある少年らしく、ルシアンには作家になりたいという夢があった。自分が想像した世界を言葉によ…
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『オイディプス王』 ソポクレス

究極の悲劇。 おそらくはギリシア悲劇のなかでもっとも有名な作品であり、古来より傑作の誉れ高く、精神分析の用語にもなっているこの悲劇について筋を紹介するまでもないだろうが、一応。 かつてテバイはライオス王によって治められていた。彼はアポロン神による不吉な運命を告げられていた。妃イオカステとのあいだに子が生まれれば、いつの日かそ…
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